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団 |
細胞というレベルで、前提となるお話をしたので、いよいよなぜ「性」があるかということをお話しましょうね。
ハプロイド細胞が2匹寄り集まった状態では、まだ「性」とは言えません。性のひな型みたいなものと言ったらいいでしょう。ただ飢餓に陥りそうだったから集まっただけ。次の状態として、ディプロイド細胞として、うまく生きられるようになった…つまり、ディプロイド細胞の状態で分裂が出来るようになったわけです。ところがここが未だに理由は不明なのですが、どういうわけか足かせというか、バグができてしまって、ディプロイド細胞は、ハプロイド細胞と違って、ある程度分裂すると、細胞全体がぼろぼろになってしまって無限に分裂を続けられないんです。 |
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ハプロイドは不死なのに、私達の体を作っているディプロイド細胞には寿命があるのですね。 |
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団 |
そうです。老化の原因にはものすごく多くのファクターがあるのですが、 いずれにしても今、私達の目に触れる全ての生物は死を避けることができません。その理由の一つが、ディプロイド細胞にあるんです。私たちの体の細胞は、ディプロイド細胞であるがゆえに無限には分裂できない。それでは、どうやってその死を避けるのか。どうすれば種として絶滅せずに生き延びているかというと、いったん「バグ」のない、ハプロイド細胞の状態に戻って新しい「分裂回数券」を手に入れることなのです。これが減数分裂、そしてこの減数分裂と合体とを合わせたものがいわゆる有性生殖なのです。
生物の卵子と精子は、実はハプロイド細胞…つまりDNAを1セットしか持っていない細胞なのですが、その持ち主であるこの「体」、つまり人間はいつか必ず死んでしまうから、種としてつなげるために、卵子と精子というハプロイド細胞を持ち寄って、新しい体を作って、それを大事に育てていく。そしてまた、その新しい体の中にまた生殖細胞ができるというメカニズムを持つことで、種をつなげていくことにしたのですね
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メカニズムとしては、ちょっと面倒ですね。 |
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団 |
確かに人間の体は60兆もの細胞でできているんだから、そんな複雑なものをわざわざハプロイド細胞の卵と精子から作らなくたって、例えば体の一部分をぽいっと切って、ミルクで湿ったガーゼに入れて、暖かい所に置いておくだけで大きくなっても良さそうなものでしょ?(笑)。 |
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うーん、確かに(笑) |
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団 |
ヒドラやクラゲなど原始的な多細胞生物は、我々と同じような細胞でできているけれども、そういうことができるんです。でも、高等な生物になればなるほど、全ての個体を必ず卵と精子から作っているんです。 |
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私達人間を含め高等な生物の場合は、ディプロイドでできているがゆえに限界がある。それでハプロイドの卵子と精子を作って、次の世代へとつなごうとしているわけですね。 |
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団 |
ディプロイドからハプロイドになり直して暮らさなければいけない。それが性別の始まりであり、性の根源的な理由です。我々は、それ以外には、もう一人人間を作る方法を持っていないのです。自分と同じ体を作る、その方法として、いったんハプロイドに戻って組み立て直しているわけです。2匹のハプロイド細胞からまた真新しいディプロイド細胞、つまり1個の受精卵ができて、それが分裂し分化して、爪になったり、皮膚になったり、神経になったりと何段階かのシステムを組み上げ、最終的にカエルになったり、人間になったり、犬になったりしていくんです。 |
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細胞ってすごく、かしこいのですね。しかしそこでもう一つ疑問が沸いてきます。卵と精子を作る個体が分かれたのはなぜでしょう。 |
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団 |
非常に早い時期に、そうなったんです。原始的なものをみると、卵も精子も同じ形をしているのですが、ある時期にそれが役割分担をすることにしました。
つまり卵子は、たくさんの栄養分を蓄えて生存の可能性を高める。そして、精子は、その卵に出会うために運動能力を持つ、ということです。
この時点で、卵はそのほかの細胞に比べて非常に大きくなってしまい、自分で身動きが取れなくなってしまいました。なので、大きな卵子というものを作る傍ら、それと出会える、そこまで辿り着けるハプロイド細胞を作らなければならなくなった。必要な栄養素などは、全部卵に入れてあるので、出会いに行く精子は、DNAを1セットと運動能力を持っていれば良い…実際精子を見ると、DNAをがっちがちに「梱包」した包みと、モーターと泳ぐためのべん毛しか持っていません
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精子と卵子を別々に持つというのも理由があるのですか? |
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団 |
2つの個体からの遺伝子をミックスすることで、強い遺伝子が残せるという考え方は、良く言われていますね。それに加えてディプロイド細胞がハプロイド細胞と違っているもう一つの大きな点は、細胞に個々の役割を持たせることができるようになったこと。 だから卵と精子という別の性質を持つ細胞を作り出したのです。そこで話をもう一歩進めて、卵と精子を作る個体を別にしたほうが、効率が良いということになったんですね。栄養をいっぱい持った卵を作るのと、命からがら走り回ろうという精子を作ろうと言うのでは思想が全く違うじゃないですか。それを、個体レベルで分業しようという工夫があった結果、雄と雌の分化が生まれたのです。その先に人間の場合は男と女という性別があるということになります。
多くの生物がそうですが、雌の方が大きい体をしているでしょう? 人間がたまたま違うから、ちょっと分からないかもしれませんが、雌の方が大きいのも、こうした理由からです。そのためか、雌の方がどっしりした感じがしませんか? |
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そういう一面があるかもしれません(笑)。細胞から見ていくことで、性について、人間について、これまでとは全く違う見方をすることができました。もっともっと、色々なものが見えてきそうです。 |