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武田さんが撮影された空の写真は、どれも感動的なのですが、そもそも、空に興味を抱かれたきっかけは何だったのですか? |
武田 |
小学校に入る前、母親との買い物帰りに、夕空を大きな流れ星が流れたんです。それがとにかく印象的で、以来、天体に興味を持ち、ボール紙で作った筒とレンズを組み合わせた手作り望遠鏡で、月のクレーターや土星のリングなど、天体を観察し始めていました。小学校高学年になって望遠鏡を買ってもらいましたが、父親から一眼レフカメラを借りて、写真を撮り始めたのもこの頃です。観察するのも楽しいし、それをきれいに写真に撮るのも好きだった――それが今につながっています。 |
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小さい頃から今に至るまでの何十年もの間、武田さんを引き付けてやまない空の魅力とは、どこにあるのでしょう。 |
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武田 |
2つあります。まず天体の場合は、流星群や皆既日食など何十年、何百年に1回という天体現象があって、自分が生きている間に、そういう珍しい現象に出会えるチャンスを大事にしたい。それが魅力の一つです。
一方でこうした天体現象は、大体、法則に則っているので、いつ起こるか予想が立てられるのですが、気象に関しては、未知の部分がたくさんあって、それが面白いし魅力なんです。例えば、雷にしても、実は高いところにばかり落ちるわけではありませんね。皆さんもご存じのように、避雷針があるのに、それをはずれて落ちる事もあるし、水面に落ちる事もある。背の高い街灯があっても、その横の道路に落ちる事もある。一般的に「こうだ」と言われているようにならないんです。逆に言えば、それだけ自分で発見する面白さが残されているということです。それに立派な研究道具や施設がなくとも、空の観察は出来ます。
僕は、何十年と空を観察し続けて、写真に収めてきましたが、それでもまだまだ発見したいものが尽きないんですよ(笑)。 |
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よく「ひつじ雲が出たら雨が降る」と言いますが、空を見ていると、こんな気象予報も出来ますか? |
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武田 |
「雲を見る」のではなくて、「雲の変化」が重要なのです。誤解される事が多いのですが、ひつじ雲が出たからといって、必ずしも天気が悪くなるとは限りません。それよりも、今出ている雲が1、2時間後にどう変化するかを観察する事が重要です。その雲の変化を「読む」事が出来れば、8割くらいの確率で短時間の天気予報が出来ます。
ただ、雲の変化とそれに伴う気象の変化というのは、地域性がとても強いので、それを全国にあてはめるわけにはいきません。例えば、今、北東の風が吹いていますが、関東地方では、この風が吹くと天気が悪くなります。 |
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今、吹いている風は冷たく、どこか湿った感じがしますね。 |
武田 |
そうでしょう? 親潮の流れる、冷たい海の方から吹いてくる風です。もともと日本の上空には、偏西風という西風が吹いているわけですが、それに対して今、逆方向から風が吹いている状態なんです。という事は、西の方に風を吸い込むモノ、つまり低気圧が控えているという事になります。低気圧とは、文字通り周りよりも気圧が低い場所なので、その中心に向かって吸い込む力が生まれます。吸い込まれた風は、低気圧の中心付近で上昇気流になり、そこから雲が沸き出している。その雲の影響で天気が悪くなりやすいんです。
このように関東地方や東北地方の太平洋側は、東風が吹くと天気が悪くなる事が多いのですが、他の地域には当てはまらない。逆に、地域性が強いからこそ「あの山に、こんな雲が見えたら天気が悪くなるかも」と知る事も出来るんです。何日も先まで予報する事は出来ませんが、空をよく観察していれば、半日先や翌日の天気は、何となく見えてきます。気象に関しては、昔から「観天望気」と言って、目で見るだけでなくて、肌で感じるという事が、大事とされてきました。そうやって漁師や農作をする人たちは、天気を自分自身で予想していたわけですし、そういう感覚を人間は持っていたはずです。今はそれを忘れてしまっているところがありますね。 |
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海外の青い空を見ると、こんな色は日本では見られないな、と思う事があります。空の濃さというのでしょうか、そもそも空はなぜ青く見えるのでしょうか? |
武田 |
太陽からの光が、空気の分子によって散乱する事に起因します。太陽光線に含まれる光のうち、波長の短い光、つまり青や藍色、紫などの光は、波長が短いために空気中で大きく散乱して、空にたくさん散らばっています。それで空が青く見えるんです。一方、夕日や朝日の場合は、太陽光線が斜めに大気を通過する事になります。つまり太陽光線が通過する空気の層が厚くなる。そうすると波長の短い光は通過する間に、散乱されつくしてしまう。残る光は、あまり散乱しない赤やオレンジや黄色などの波長の長い光。それで朝日や夕焼けは赤く見えるんですよ。 |
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地域によって、その色に違いがあるのでしょうか? |
武田 |
空気中に水蒸気がない時は、世界中そんなに変わりません。色の違いを起こす原因は、空気中に浮かぶ砂埃や埃、海の水しぶき、排気ガスやスモッグなど空気以外の色々な粒です。それらが青い色に混じって、空の色が白っぽく見えることもあるでしょう。でも、日本は雨が多いし、風も強いですから、空気は結構きれいですよ。 |
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海外の空の色が濃いと思っていたのは、多分に気分の問題なのですね。 |
武田 |
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撮影:武田康男(千葉県柏市にて) |
日本ほど、空が面白い場所はありません。例えば、七色に染まった彩雲も、ここ千葉県柏市で撮影しました。彩雲は、巻積雲という高い雲に見られる現象です。空気が乾いていて、雲が消えていくような時に見られるのですが、その時に雲の粒が大きさも分布もうまい具合に揃い、同時に太陽からちょうど良い角度で光が当たった時に起こります。昔から縁起が良いとして日本人が好きな雲の一つですし、日本ではジェット気流や偏西風の影響で、条件に合う雲が一番出やすいんです。 |
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彩雲を始め、こんな美しい空の表情が、身近で観察出来るとは知りませんでした。 |
武田 |
僕にとっても意外な発見でした。こんな小さな島国を離れた方が、いろいろな空を見る事が出来るのじゃないかと思っていたのですが、外国は、天気の変化が少ない。同じような気圧配置が続く中で、空も同じような表情をしています。そういう意味では、外国は何日もいると飽きてしまう(笑)。日本は季節による変化もあるし、空の色も雲も本当に多様です。
だって、日本なら、大雪と快晴という両極端の天気が、新幹線1時間の距離で観察出来るんです。国内でダイヤモンドダストも流氷も、積乱雲も見られる。北海道から沖縄まで、四季を通じて本当に楽しめるという事が、観察を続けていてだんだん分かってきたのは嬉しかったですね。空を研究するのは、日本中旅するのが、一番良いようです(笑)。 |