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かしこい生き方 農学博士 田中修さん

「植物のもつ仕組みは、かしこい生き方、そのものです。」

動物は動き回り、話す一方、植物はじっと動かずにいる。 だから「動物の方が上」…。意識せずともそう思っている人が 少なくないかもしれない。だが、植物が行う光合成、つまり無機物から 有機物を作る仕組みは、動物にはマネできない能力。 それによって、その他の生物の生命は養われている。 植物の本当のすごさとは? 「科学は一枚の葉っぱに及ばない」と言う 植物の研究者である田中修さんに植物の生き方のかしこさを伺った。

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環境に対応する仕組みを次々に用意 動かなくても大丈夫!

田中

「植物は動き回わらないから下等」というのは、短絡的な考え方ですね。動かないのは、その必要がないからです。なぜか。それは、動物が動き回る理由を考えれば、ごく簡単に理解できます。
まず、動物は食べ物を探し求めて動き回る。でも植物は光合成によって自分の栄養を自分で作れるので動き回る必要がありません。次に、動物は生殖の相手を探さなくてはいけません。一方、植物は花粉を風や虫に運ばせます。ただし、風や虫といった、どこに飛んで行くか分からないものに花粉を託すので、植物はそこにじっとしていても、うまく生殖できる巧みな仕組みを備えています。それから動物は、寒い時は暖かい所に、暑い時は日陰に移動しなくてはなりませんが、植物はそんな必要はありません。ここ数年、人間や動物の熱中症が話題になっていますが、植物は、絶対そういう事にはなりません。夏の暑さに弱い植物は、春の間に花を咲かして、種になって夏の暑さをしのぐので、熱中症になるような植物は夏にはもう生えていません。

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自分の形を変えて環境に対応しているわけですね。

田中

そうですね。夏に生えている植物は、アフリカ、インド、熱帯アジアなど、暑い所の出身です。例えば、一番暑い夏場にきれいに育つゴーヤの原産地は、熱帯アジアです。植物たちは、「動物はうろうろ動き回わらないと生きていけない、可哀そうな生き物やなぁ」と思っているでしょう(笑)。それが植物たちの、動物に対する見方だろうと思います。

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これからどうなるかを予測して、準備しているわけですか。

田中

そうなんです。植物は、昼と夜、特に夜の長さをはかって2ヶ月先ごろに暑くなる、寒くなるということをちゃんと知っているんです。

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夜の長さ?

田中

例えば、今から夏に向けてどんどん暑くなっていきますが、最も夏らしい夜の長さは夏至の日で、6月の下旬です。一番暑いのは、それから2ヶ月後の8月です。ですから夜の長さをじっとはかって、夜が短くなる夏至の日に向かって花を咲かせておいたら、2ヶ月先の暑い時には、種ができます。冬を種でしのぐ植物は、夜がだんだん長くなってきて、最も冬らしい夜の長さ、つまり12月下旬の冬至の日に向かって花を咲かせておけばいいのです。

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その夜の長さ、暗さを、感知するセンサーがあるのですか。

田中

光を感知するのは、葉っぱの中にあるフィトクロムという色素で、長さを計るのは、いわゆる生物時計というものが考えられます。ただこれは、あくまでも仮説混じりでして、生物時計があることは確実に分かっているし、生物時計が関与する現象はいくらでも挙げられますが、その時計の本体が何であるかは動物でも植物でも分かっていません。科学というのは、分からないことだらけなんです。

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なるほど。ただ植物は、じっとしていると言いながら、例えば虫に食べられたら、すかさず化学物質を出すなど、実は活発に動いていますね。

田中

動き回らないからこそ、すごい仕組みを持っていないと生きていけないわけです。例えば植物の感覚。触ってもちゃんと感じているんです。

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感じる?

田中

「ほんまに感じてるのか?」と思われるかもしれませんが、「ほんま」です。例えばモヤシは、暗い箱の中に種をまいて水をやって育てます。すると、ひょろひょろと背が高くなります。「モヤシはまっ暗な中で育っているから、光を探し求めて伸びるんだ」と言われますが、では、まっ暗な土の中に埋めたらどうなるのかというと、なかなか芽が出てこない。土の中で、太い太い、短い短い茎になっているからです。
なぜ、土の中だと太く短いたくましい茎になるのかというと、土と接触しているという刺激を感じているからです。考えてみて下さい。土の中で、ひょろひょろとした芽を出したら、土を押しのけて地上部へ出られませんよね。 同じ「暗い」という条件だけれど、植物は、自分に土の粒子が触れているという刺激を感じている。だから、周囲の環境によって生え方が違うのです。

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植物を育てる時に、優しい言葉をかけると良いとも言いますが?

田中

実際は、言葉に反応しているわけではありません。言葉をかけながら触っているから、触れられるのを感じて、太く、たくましい茎になる。キクなどでは、その茎で支えられる大きくりっぱな花が咲く。触られないと、茎が太くないので、りっぱな花が咲きません。
触れられると、太く、たくましい茎になる実験は、朝顔で簡単にできます。双葉を2株用意してきて、1株は、毎朝、10回、茎をこする。もう1株は、知らん顔して何もしない。1週間もしたら、どちらが触った株かがはっきり分かります。だから、植物は言葉というより接触の刺激を感じているのです。試しにひどい言葉を掛けながら、キクを触っていても、大きくりっぱな花が咲くはずです。

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(笑)。植物に音楽を聞かせると良いと言いますが、あれは本当なのでしょうか。

田中

あるでしょうね。音楽は、空気の振動を起こさせるものですから、それによって、二酸化炭素を取り込める量が増えるのだと考えられます。
そもそも、空気中の二酸化炭素濃度は0.04%ほどです。植物は、その二酸化炭素を葉っぱの気孔から取り入れて、光合成を行なうわけですが、植物は、二酸化炭素を吸い込むわけじゃありません。葉っぱの内と外では内のほうが二酸化炭素濃度はちょっと薄い。気体では、濃い濃度のものが薄い濃度のものと一緒になろうという性質があり、気孔を開くと薄い方に、つまり植物の中に入って来るんです。
植物は、光合成をして大きくなると皆さん知っていますから、光が当たっていたら「あんなに当たって、喜んで光合成をしている」と思われるかもしれませんが、とんでもない。多くの植物は、3万ルクス程度の光の強さで充分なのに、実際は10万ルクス程度もあって、光合成の材料、つまり二酸化炭素は恒常的に不足している。しかも光が当たってエネルギーは発生してしまうので、行き場のないエネルギーは結局、活性酸素という体に悪いものを作ってしまうのです。

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活性酸素というのは人間にも悪影響があると言われていますが…。

田中

ええ。植物にとっても有害ですから、それを打ち消す仕組みを発達させたんです。活性酸素は、紫外線が当たっても発生し、人間ではシミやシワなどの原因になります。それを抑えるためにビタミンCやEが良いと言われますが、それは、これらが活性酸素を打ち消す抗酸化物質だからです。ここで考えてみて下さい。「あの野菜はビタミンCやEを多く含んでいるから体に良い」と言いますね。では、その野菜がなぜビタミンCやビタミンEを作っているのか。それは植物自身が、自分の体を紫外線や強い光から守るためで、同じ悩みを持つ人間は、それを利用させてもらっているんです。

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野菜はビタミンが豊富だから体に良いとは思っていても、そこにそんな仕組みがあったなど考えたこともありませんでした。

田中

植物の祖先は、海の中で生まれましたが、陸の上は太陽が輝いていて、酸素もいっぱいある。パラダイスのように映ったかもしれません。それで太陽の光にあこがれて上陸したら、太陽は優しくなくて、紫外線もあるし光は強過ぎる。「これは、困った」と思ったのでしょう。そこで、陸上で適応する仕組みを発達させたのです。それが今ある植物たちです。

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花の色もそうなのですか。

田中

花は生殖器官であり、子供ができる大切な場所です。そこに紫外線があたったら突然変異が起きてしまいます。ほとんどの花の色は、アントシアニンとカロチンという二大色素からなっているのですが、それらはビタミンCやビタミンEと同じく、抗酸化物質です。それらの物質は、紫外線の害を子供に与えないようにしているんです。
花がきれいなのは、虫を引きよせて花粉を運んでもらいたいからと言われますが、それなら抗酸化物質でなくても、色さえきれいなら良いはずです。更に実になっても、気を抜かない。柿の果肉は黄色ですし、トマトは赤、茄子だったら紫。みんな、カロチンやアントシアニンの色です。そうやって、中の種が完熟するまで守り、熟した時は美味しく甘くなって「どうぞ食べて下さい」とアピールする。動物に食べられて種まきができるからです。植物はそうやって、種を作るところから最後まで、自分が置かれた状況を理解して生きている。かしこい生き方そのものだと思います。

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南国の花は色がきれいだなと思っていたのですが、そこにきっちりした理由があったのですね。聞けば聞くほど、よくできた仕組みです。

田中

茄子なんて、へたの裏は真っ白ですが、へたをめくって2日ばかり放っておくと、露出したことによって、すぐに紫色に変わります。

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そんなに素早く反応するのですね。鉢植えなども思いの外、すばやく太陽の光の方に向くなあと思っていたのですが。

田中

そうそう。結構すばやいでしょ。植物は、皆さんが思っているほど、鈍臭い生き物ではないんですよ(笑)。


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科学の力は足もとにも及ばない 生物の食べ物を生み出す植物

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海の中から陸に出てきた植物は、生きるためにいろいろな仕組みを作りましたね。

田中

海から上陸して初めて出会う環境が、まず乾燥、そして自分の体を支えるものが必要になったでしょう。陸上に出てきた最初の姿である苔は、乾燥に弱いから、じめじめした所を好むし、背も自分を支えられないから大きくならない。それがシダ植物へと進化していき、ちょっとずつ背が高くなって、乾燥にも耐えられるようになってきた。これが植物の進化の過程です。
植物の進化をごく簡単に言えば、「いかに水との縁を断ち切って生きられるか」ということに尽きます。水との縁を断ち切ることが進化という見方もできます。

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ということは、例えば砂漠に育つ植物のほうが、より進化しているということですか。

田中

はい。先にも言ったように普通の植物にとって太陽光は過剰なのですが、中には、乾燥、高温、強光の中で生きていける植物があります。C4植物と呼ばれており、このグループの植物は、二酸化炭素と結びつきやすいPEPカルボキシラーゼという酵素を持っているので、二酸化炭素を取り込むのが、すごく上手なんです。気孔からあまり水が蒸発しないようにすばやく二酸化炭素を取り込むので、C4植物のグループは、水の使用量を節約できます。だいたい体を1グラム増やすのに、普通の植物は500から800gの水が必要ですが、C4グループは250から350gで、C3植物の約2分の1程度です。

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C4植物には、どういうものがあるのですか。

田中

トウモロコシやサトウキビなどが代表ですね。C4植物は、強い太陽の光で、いくらでも光合成していけるタイプなんです。いずれこういう植物が、暑い地域では繁殖してくるでしょうし、人間は、こうした植物の仕組みを栽培作物に利用したいと考えています。でも、まだ人間の技術が追いついていません。

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一方で、何千年前の種が発芽したことがニュースになったりします。そんな種が発芽できること自体、すごいと思うのですが、実は、種は自分の環境が整うまで、じっと土の中にいる。つまり環境が分かるとか。

田中

種は、大事な役割をたくさん背負わされていますから、非常に多くの仕組みを持っているんです。種の一番大事な役割は、都合の悪い環境を耐え忍ぶこと。だから自分が今、発芽して大丈夫かどうか、感知する仕組みが必要です。小学校の理科では、水と温度と酸素があれば発芽する、と教わりますが、光もない所で、平気で発芽する植物は生きていけません。栽培植物なら、発芽すれば、人間が良い条件を与えますから大丈夫ですが、雑草系の植物の多くは、光がなかったらほとんどが発芽しません。「ほんとうか?」と思われたら、その辺の土を耕して、水を与えてください。雑草がいっぱい芽を出します。あるいは畑の土をスコップで取ってきて広げて水を与えたら、どんどん発芽します。土の中で光が当たるのをじっと待っていた種です。光が当たったら「今、発芽したら生きていける」と発芽するんです。種は、光を確実に感知していますし、自分がどの位の深さに居るのかも知っています。

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種が、ですか? どうやって?

田中

温度が変化するのを感じているのです。僕らが普通に実験する時、例えばレタスの種は20から25度の所に置いておいたら、喜んですぐ発芽してきます。でも、アカザやシロザといった雑草の種子は、そんな所に置いても1個も発芽しません。昼間12時間、20度の所に置いたら、夜は10度位の所に12時間置くという温度の変化がないとダメなのです。なぜかといえば、温度の変化を感じるということは「土の中の浅いところ」に居るということを意味します。アカザやシロザの種は小さいし、変温を感じないような深いところに埋まっていると、発芽しても、自分が持っている栄養で地上に芽を出せるかどうかわからない。だから変温を感じる浅い所でしか発芽しないのです。

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種は「場所」を知っているということですね。「時の流れ」は知っていますか。

田中

種は、「時の流れ」も知っています。種は苦手な季節をやり過ごす姿でもあるという話をしました。例えば秋に結実する植物の種を集めて、水と適温と酸素と光を与えて「発芽するだろう」と待っていても、発芽しません。冬の寒さを逃れるために種になったのだから、寒さを経験せずに発芽したら、何のために種になったのか分からないでしょう。

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出てみたら苦手な冬がすぐにやってきた、では困りますね。

田中

草が生い茂っている所に落ちた種も、発芽しても必要な光が当たらないと分かっているから、発芽しません。植物は、太陽光の中の赤と青の光によって光合成をしていますが、発芽に必要なのは赤色。それを周りの葉っぱが皆、使ってしまう状況なら発芽しませんし、更に発芽を阻害する、遠赤光を感知しても当然、発芽しません。その光は、上に生い茂る他の葉が必要としないので透過したわけですから、自分が発芽しても生きられない。だから「発芽したらあかんよ」と、教えてくれているのに等しい光なんです。植物はこうして、場所も季節も時間も知っているんです。

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無機物から有機物が作れる光合成だけでも、人間のとても及ばない点なのに、これほどまでの仕組みを備えていたんですね。

田中

そうなんです。どんなに科学が発達していても、まだたった1枚の葉っぱにもかないません。地球上の動物の食料は、元を正せばすべて植物が作ってくれているわけです。でも、植物も、食べ尽くされては困るから、苦みやえぐみといった防御物質を持っている。とげや有毒物質も持っている植物って、けっこうたくさんあるんです。

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しかも「食べられた」ら出る、嫌な味もありますよね。

田中

ええ。例えば、ワサビやダイコンは、生で食べてもそれほど辛くありませんが、すり下ろすと辛みが出てきます。あれは、体に傷がつくと反応して出てくる成分のせいです。植物の香りはほとんどがそうで、桜餅は良い香りがしますが、サクラの葉っぱを取って嗅いでも、あの良い香りはしません。樟脳(しょうのう)などもそうです。あれはクスノキの葉っぱから作るのですが、クスノキの葉っぱもそのままでは何もにおわない。傷ついたらにおうようになっています。だから、葉っぱをくちゃくちゃに丸めて傷をつけるとすごく匂うんです。その香りは虫が嫌う「香り」なんです。植物はそうやって、自分の体を病原菌や虫、動物から守っているんです。

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それなら普段からにおっていてもいいような…。

田中

いやいや、いらん事で余計なエネルギーを使いたくないですから、生身の葉っぱがにおう必要はないんです。だけど虫がかじったり病原菌がついたら精一杯反応する。それが、あの香りなんです。植物は皆、けっこう有毒物質を持っているのだけれど、植物が好きな人ほど「そんなことない!」と、この話を嫌がりますけどね(笑)。

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種の多様性という意味では、自家不和合性、近親結婚を避けるという性質も持っているそうですね。

田中

皆さん、花の中には、オシベとメシベがあると知っているし、オシベの先の花粉がメシベに付いたら種ができると知っていますよね。だから、花が咲いたら、種ができるのは簡単だと思っているかもしれませんが、それは違うんです。多くの植物は、自分の花粉を自分のメシベにつけて種を作ろうと思ってはいません。それでは自分と同じ性質の子供ができるだけで、もし自分がある病気に弱いという性質を持っていたら、その病気が流行ると、自分も子供も全滅してしまう可能性がある。生殖の目的は、オスとメス、それぞれが持っている性質を合体して混ぜ合わせることで、多様な性質の子供をつくるためです。だからこそ、オシベとメシベとに分化しているのであって、虫が大事なんです。

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自分同士ではつけたくない?

田中

ええ。花をよく見て下さい。多くの花はメシベの方が背が高くて、オシベの方が背が低い。逆だと、花粉が落ちたらメシベに付いてしまうでしょう。

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それでは自家受粉になってしまう…。

田中

そうならないような形を保ちつつ、他の株の花粉を虫が持ってきてくれるのを待っているのですが、開花している時間は限られている。でも子孫は残したい。例えばオシロイバナは夕方咲いて、朝にはしおれてしまいます。だからもし他の株の花粉と受粉できなかったら最後の手段として、しおれるときに、メシベがぎゅっと巻き上がって、オシベとくっつくようになっている。「もう自分の花粉でもいい。受粉できないよりまし」ということです。それまでは、他の花粉が来たらいいなと待っていたけれど……(笑)。それには保険がかかっていて「もう、あかん」と思ったら保険を使う。ツユクサもオオイヌフグリなど、そういう花は多いんです。もちろん、先に別の花粉がメシベについていたら、もう受精しませんからね。

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オシベとメシベがあんなに近くにあったら、虫が花粉を運ばなくても、同じ花の中で受粉するのでは、と思っていた疑問が今、解けました!

田中

植物は、どこに飛んで行くか分からない風や虫に大切な花粉を託すので、いろいろと工夫を忍ばせているんです。確実に子孫を残すために、大量の花粉を作ります。花の中にメシベよりオシベが多いのも花粉を多く作るためです。虫に花粉を託す植物は、虫を引き寄せるために香りや花の色も使うし、おいしい蜜も用意する。ツツジは、模様のある花びらがありますが、あれは蜜標(みつひょう)と言って、その模様を目当てに入って行くと蜜がいっぱいもらえますよ、という虫へのお知らせ。そして自分の遺伝子だけでは、多様性が確保できないから、なるべく他の株の花と受粉するために、ほとんどの植物は仲間と一緒の時期に咲くんです。「春」というあいまいな長さではなくて決まった10日間程度。一日でしおれるような、例えば朝顔などは「朝、一緒に咲こうな」と決めておいて、時刻を決めて一斉に咲く。寝ぼけて昼に咲くなんてないでしょう? 月見草は、夕方に一斉に咲く。

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なぜ、朝や昼、夕方と一度に咲けるのですか。

田中

大きく3つに分けられます。朝の明るい光に反応するもの、朝の気温の上昇に反応するもの、もう一つは、咲く直前の環境には一切反応しない朝顔などのグループです。明るくなったら咲くのかといったら、そんな事はなくて、夏だったら4時くらいに咲く。実は、前の日に「暗くなった」という刺激を感じてから、10時間後に開くと決まっているんです。そのタイミングが植物ごとに決まっていて、朝顔は朝、月見草は夕方、月下美人は夜10時頃に咲く。自分だけがきれいな花を咲かせて、虫を引き寄せても、仲間が一緒に咲かないと実り多き生涯は送れないんです。仲間が大切なんです。健全な子孫を残すためには、そういう仕組みを働かせないといけない。

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巧みな仕組みを、随所に働かせていますね。

田中

仕組みもそうですし、植物が持つ潜在的な能力も目を見張るものがあります。果樹園なんかに生えているタンポポの根は、栄養もあるし土も柔らかいから、ニンジン位の太さになってゴボウのように長く深く伸びています。でも、路地にあるようなタンポポは、小さな葉っぱを茂らせているでしょう? 自分の与えられた環境で、分相応な生き方をしているんです。オオバコも人が踏まない所で育てたら「そんなオオバコはないだろう」と言うほど、ものすごく立派な葉を茂らせます。あるいは、土を使わない水耕栽培「ハイポニカ」で育てたトマトなんて、1つの株に1万2000個ものトマトがなります。特別な栽培をしているわけではなくて、トマトは本来そういう性質、能力を持っているということなんです。ですから植物は、繁殖する能力はあるけれど、自分の与えられた所で、秩序を乱す事なく、分相応の生き方をしている。ほかのものをやっつけたりする事は、ほとんどないんです。

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そうなると、人間は傍若無人に振る舞って、申し訳ないという気持ちになってきますね…。

田中

そうですね。植物には、生きる仕組みだけでなく、見習うことがたくさんあるんです。


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田中修(たなか・おさむ)

1947年京都府生まれ。農学博士。京都大学農学部卒業、同大学大学院博士課程修了。アメリカのスミソニアン研究所博士研究員などを経て、現在甲南大学理工学部教授。専門は植物生理学。著書に『たのしい植物学 植物たちが魅せるふしぎな世界』(講談社 ブルーバックス)、『葉っぱのふしぎ 緑色に秘められたしくみと働き』(サイエンス・アイ新書)、『雑草のはなし―見つけ方、たのしみ方』(中公新書)、『都会の花と木―四季を彩る植物のはなし』(中公新書)、『花のふしぎ100 花の仲間はどうして一斉に咲きほこるの?タネづくりに秘めた植物たちの工夫とは?』(サイエンス・アイ新書)など多数。

●取材後記

「西洋タンポポのせいで、在来型のタンポポが姿を消した」と言われているが、田中さんによれば、人間の営みのせいで日本のタンポポが繁殖できなくなってしまい、空いたところに西洋タンポポが増えたのだそうだ。何か、うまくいかない気がすると、手近な原因を見つけたがるのは人間のクセのようだが、でも、本当は自分のせい…。動かない植物に学ぶことは、想像以上に多かった。

構成、文/飯塚りえ   撮影/海野惶世   イラスト/小湊好治
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