川前エバンジェリスト(データサイエンティスト)によるAAAI 2020(Association for the Advancement of Artificial Intelligence ※)への参加レポートです、ニューヨークでのDeep Learningのスター研究者の発表やリサーチセッションの様子をお届けします。
※ニューヨークで2/7-12に開催された、GAFA、BATなどのITの先進企業や大学からの最新の研究成果が発表される、今回で34回目となる人工知能分野で最も権威ある国際会議。
HP(英語) https://aaai.org/Conferences/AAAI-20/

川前 徳章 [かわまえのりあき]
エバンジェリスト
(データサイエンティスト)

加藤稔

2009年NTTコムウェア入社。大規模データの分散処理基盤の調査・導入から始まり、レコメンドシステム、情報検索、機械学習、自然言語理解(NLU)、AI等データサイエンスの研究開発とその導入に従事(2015/11~)東京大学大学院情報学環 セキュア情報化社会研究寄付講座 客員研究員、 (2010/10~)電子情報通信学会 査読委員

ニューヨークにスター研究者が
集結した今年のAAAIとは?

 今年のAAAIはニューヨークでの開催でした。ニューヨークと言えば、以前、出張で参加したイベントのレポートを書いたことがあります。

【レポート】Hadoop World 2015に参加してきました ※外部サイト(マイナビニュース)

 あの時はニューヨークのホテルの宿泊費の高さに驚きましたが、幸い、今回のAAAIの開催時期はニューヨークのホテルが比較的安価になる時期に当たったので、他の都市に比べれば高いものの、クールな価格でした。

 価格だけでなくこの時期のニューヨークは寒いと聞いていましたが、行ってみると、思っていたほどは寒くはありませんでした。その理由は地球温暖化の影響もあると思いますが、この時期に開催されたAAAIの熱気も少なからず影響を与えたのではないのでしょうか?
 その様子を現地に行き参加した一人として伝えていきたいと思います。


写真:ACM Turing Award Winners Eventの会場

 AAAIは人工知能に関する研究論文を発表するリサーチセッションを中心に、パネルにポスタを展示してその前で発表するポスタセッション、特定のテーマについての講義形式のチュートリアル、特定のテーマに絞って講演及びディスカッションをするワークショップ、講演会や併設会議などから構成され、2月7日から12日の6日間に渡って開催されました。
 AAAIのヒートアップは既に開催前、論文の投稿時期から始まっていて、8,000本のアブスト、そのうち7,757本が論文として投稿されました。その中から査読の結果、発表された論文の総数は1,591で口頭発表の数は454、ポスタ発表の数は1,137でした。
 昨今のAIやデータサイエンス関連の学会は数年前から論文の投稿数が増加の一歩を辿り、同系列の会議であるNeurIPSは昨年の論文投稿数が7,000近くあり記録を更新しましたが、AAAIはそれを上回る投稿数を達成し、参加登録者数は4,000人に上ったとのことでした。
 実際の参加者数はコロナウイルスの影響でこの数字を下回ると思いますが、数年前に同じホテルで開催されたHadoop Worldと比較しても、参加者数は3,000人を超えていたものと思われます。

 朝の8時半から講演が始まり、夜の9時頃まで各種イベントが続く構成になっていて、合間に休憩があるものの、最新のAIの研究事例に一早く触れることができ、ロックスターとも言われるこの分野のスター研究者の講演あるいはディスカッションをできる貴重な機会でもあります。

AAAIリサーチセッションの様子

 会議のメインであるリサーチセッションについて報告します。開催形式はマルチセッションになっているので、同じ時間帯に複数のセッションが走ります。今回の会議では同時間帯に平均して12のセッションがありました。
 セッションはテーマ毎に独立し、扱うテーマはAIに関する領域を幅広く網羅しており、Robotics、Plaining、Game theoryといったAIではお馴染みのテーマから、画像認識や自然言語処理までのテーマがありました。
 特に後の2つのテーマはその人気を反映して、論文の投稿数も多いことから、同時間帯に平均して各々2セッションもあるので、このテーマに関していうと、セッション単位でなく、発表毎に部屋を行き来する聴講者も見かけました。
 AAAIでもWebアプリを提供しているので、事前や会議中にプログラムをカスタマイズしている人も多かったようです。

 立ち見どころか部屋に入りきれないセッションもありましたので、良い席=最前列席の確保は早めの行動を心掛けました。リサーチセッションは口頭発表だけでなくポスタ発表の著者も発表します。
 発表時間は口頭発表でも20分なので、聴講者にテーマの基礎知識があることを前提に話すにしても、この時間内で研究の成果を伝えることが難しい論文の内容もあります。その場合、発表時間が2分と短いポスタ発表のように、研究の課題やモチベーションを伝えて、「詳細はポスタセッションに来てください!」というスタンスの発表も目立ちました。
 私は自然言語処理関係のセッションを中心に聴講しました。この分野は最近中国の研究者の活躍が目覚ましく、発表の半数近くが中国からの発表でした。が、コロナウイルスの影響で、中国からの参加者は殆どがビデオによる講演となっていました。

 会議ではスポンサーブースが設置され、ジョブフェアも同じフロアで開催されていていました。休憩時間には会議の参加者がこちらに移動するため、時間帯によってはブースに近づくことも困難な状況でした。
 スポンサーブースでは筑波大学が出展しており、大学の研究機関の出展は珍しいこともあって、人目を引いていました。

ACM Turing Award Winners
Eventの興奮と熱気

 今回の会議の振り返りで、会議三日目の夜(2/8)にあったACM Turing Award Winners Eventについて触れずにはいられません。
 このイベントは最近のAIあるいはDeep Learningのゴッドファーザーと呼ばれるGeoffrey Hinton, Yann LeCun, Yoshua Bengioの三氏※のACM Turing Awardの受賞を記念し、これらゴッドファーザーの方々の講演が二時間にわたり続きました。
 トップバッターのHinton氏からはDeep Learningの代表的なフレームワークの一つであるCNNの限界について説明した後に、氏らが最近提案したフレームワークであるCapsuleの紹介がありました。
 この講演を受けて、Hinton氏の弟子にあたるLeCun氏は代表的な機械学習のタスクの一つであるSupervised learningにおけるDeep Learningの限界を解説した後に、自然言語処理では成功を収めているSelf-supervised learningに着目し、これを画像処理へ適用している試みにおける課題について解説し、Self-supervised learningに未来があると結論付けました。
 最後はLeCun 氏の同僚でもあったBengio氏がDeep Learningの方向性として「意識」について着目していること、またDeep Learningが人と同程度の知性に達するために必要な要素について解説されていました。
 講演の後には参加者がゴッドファーザーに質問をする機会があり、終了後、多くの参加者が興奮と満足感が入り混じった表情で会場を後にしたのが印象的でした。

 参加者は勿論、発表される論文の数も多い会議ですが、私なりにこの分野のトレンドというか特徴が見えてきた気がします。AI実現の手段としてDeep Learningがトレンドであるのは勿論で、1)実用化に向けた課題解決、及び2)異分野との融合が多かったと感じました。
 例えば、1)に関してはデータのバイアス問題の解決や学習モデルの説明性の提示や向上と言ったものが含まれるでしょう。
 2)に関してはDeep Learningのネットワークの学習に構造を取り入れたもの、例えばKey graphや多様体などがあります。偶然ではないと思いますが、これらのトレンドはゴッドファーザーの講演にも含まれていました。
 研究の特徴は今回のAAAIに限ったことではなく、ここ数年、他のAIやデータサイエンス関連の会議であるNeurIPSやKDD、WSDMなどでも見ることができます。

まとめ
(日本からも熱狂させたい分野)

 会議で参加者を最も熱狂させたイベントの一つはACM Turing Award Winners Eventでしょう。自分が冬のニューヨークにいることを忘れてしまいました。改めて現在のAIの中心にはDeep Learningが存在していると感じました、そして、当分は君臨し続けるでしょう。その一方で、Deep Learningの学習に欠かせない、隠れ層が3層以上に適用可能なbackpropagationは甘利俊一氏が、Deep Learningの代表的なモデルであるCNNの基となったNeocognitronは福島邦彦氏が発表したことを思うと、日本人の参加者がもっとこの分野を盛り上げなければと反省しつつニューヨークから戻りました。
 いつ解決出来るかどうか分からない大きな宿題を頂いた感じです。