今月の書籍
レビュワー:高橋 征義
- 『こんにちは! 要件定義①【情報活用とデータベース編】』
DXとAIの時代のために、要件定義としてのデータモデリングを学ぶ
本書は要件定義の観点からデータモデリングを捉え直した書籍である。
著者は、以前に本連載で紹介した『楽々ERDレッスン』の著者でもある。その後はデータベースよりも要件定義や設計関連の書籍を主に執筆していたが、約20年ぶりにデータ設計を主題として書かれたのが本書である。
前著との違いは、読者対象が広がったことだ。本書では、現代のソフトウェア開発における重要なテーマとして「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進」と「AI活用」を挙げている。どちらもバズワード化した感はあるが、両者の根底にあるのはデータであり、データベースの整備は依然として欠かせない。そのため、要件が固まってからデータベースを設計するのではなく、要件定義や企画の段階からデータモデリングを意識しなければならない、というのが本書の主張である。
そのような背景から、本書はソフトウェア開発者だけではなくビジネス寄りの担当者もターゲットに含めている。
第1章「仕事と情報とIT」では、本書内で扱う「IT」「情報」「仕事」をそれぞれ定義しており、「仕事」は、個々の具体的な業務・タスクのようなことと説明している。
その前提のもとに、「DX以前の〈仕事〉と〈情報〉の関係から説き起こし、それをつなぐものとしてITを位置づける。そこからUIやAPI、データ構造と背後にあるデータベースへと話を進め、エンティティ(テーブル)と正規化、リレーションシップといったデータモデリングの概念を説明していく。
ここでは、例としてレストランを取り上げている。データベースの設計では、つい「顧客マスタ」を作りがちだが、街中にある一般のレストランなら、通りすがりの客も多いだろう。その場合、顧客レコードを前提とするような設計をするのは適切ではない。そのため、テーブルごとに会計を行う店なら「メニュー」「注文」と並んで「顧客」ではなく「テーブル(卓)」をエンティティとして扱うといった点も、実際の業務(ここではレストラン)の現場に合わせたデータ設計を行う姿勢が表れている。「イベント」「リソース」といった用語を「活動系」「存在系」と言い換えているのも間口を広げるための工夫と思われる。
もっとも、対象が広がったとしても難易度自体が下がっているわけではない。本書は最後のまとめを除くと全7章の構成であり、第5章から第7章では、それぞれエンティティの項目(属性あるいはカラム)、IDとキー、サンプル集を扱っている。一見、エンティティ設計の基本を解説しただけで終わるような構成に見えるかもしれないが、その端々には著者の踏み込んだ知見が込められている。とりわけコラムは、データベースやSQLをある程度知っている読者に向けた記述も多く、むしろ初級者よりも中級者くらいのソフトウェア開発者のほうが得られるところが多いかもしれない。
本書はデータベース設計の手順をなぞるチュートリアルではなく、現実にビジネスや作業において発生する事実や状態を、どのようにデータとして扱うかを学ぶ本である。ある程度ソフトウェア開発を経験した人にとっても、感覚や慣例に頼りがちな「業務をデータに落とす」という設計作業を、改めて考え直すきっかけになるだろう。
今月のレビュワー

高橋 征義(たかはし・まさよし)
札幌出身。Web制作会社にてプログラマとして勤務する傍ら、2004年にRubyの開発者と利用者を支援する団体、日本Rubyの会を設立、現在まで代表を務める。2010年にITエンジニア向けの技術系電子書籍の制作と販売を行う株式会社達人出版会を設立、現在まで代表取締役。著書に『たのしいRuby』(共著)など。好きな作家は新井素子。
2026/05/20













