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ITジャーナリストや現役書店員、編集者が選ぶ デジタル人材のためのブックレビュー 
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今月の書籍

レビュワー:yomoyomo

  • 『ソフトウェア開発者のキャリアハンドブック』―キャリアの不確実性を進み続けるためのガイド

ギークの時代を越えて──成熟するIT業界におけるソフトウェア開発者のキャリア論

本書は2011年に刊行された『Being Geek』の増補改訂版ですが、書名が変わっています。それについては冒頭に著者から説明がありますが、ソフトウェアエンジニアの多くが「ギーク」*1や「ナード」*2であること自体は特筆すべき話でなくなっています。そうした意味で、『Being Geek』の原書の副題だった「ソフトウェア開発者のキャリアハンドブック」が書名に格上げされるのは自然な流れと言えます。

  • *1 ギーク:コンピューターやインターネットなどの分野の知識は豊富だが,社会性に乏しいとみなされがちな人
  • *2 ナード:特定の学問や技術分野に強い関心を持ち、知識やスキルに熱中する一方で、社交性が低い人

本書はソフトウェア開発者のキャリアについて40以上の章にわたって論じていますが、第I部「キャリアの形成」が早々に転職の話になり、最後の第IV部「変化」がやはり転職の話で締めくくられる構成は、『Being Geek』刊行当時よりも現在の日本のソフトウェア開発者に受け入れやすくなっていると考えられます。

本書の著者は、Apple、Pinterest、Slack、Netscapeなど、シリコンバレーの名だたる企業で経験を積んできたベテランであり、その経験から紡ぎ出された語りには、単なる正論の羅列ではない現場感があります。

果たして自分が成長しているか、「死んだのも同然」になっていないかを確かめる3つの問いなど普遍的な教えがあります。一方で、自己中心的で物事を混乱させる「困った人」は厄介な存在だが、会社には必要な存在であるとか、マネージャーがかつてのエンジニアなのは、部下と同じ言葉を話し、部下が抱える問題を理解できるという意味で喜ばしいことに思えるが、実は良いこととは言い切れない、というように彼の教えには一筋縄ではいかない多義性もあります。

特に著者が力を入れて語るのは、エンジニアとマネージャーの関係です。エンジニアがマネージャーになって必要になる仕事、つまりコミュニケーションのハブとなり他部署の「言語」を翻訳し、部下に入る情報の圧縮とフィルタリングを担い、さらには最前線で予測不能な事態に対処することについて、本書からは多くの学びがあります。若手から中堅までのエンジニア、特にマネージャー職に足を踏み入れるソフトウェア開発者には力となるでしょう。

『Being Geek』でもっとも印象深かった逸話があります。曰く「Netscapeには毎週水曜日にカフェテリアでブリッジ(カードゲーム)をする人たちがおり、そのメンバー4人はバラバラの組織に属していたが、実は彼らこそがブラウザの基本的な仕様を決定しており、Netscapeの文化を形作っていた。そして、そのメンバーが退職したことで、著者は会社の先行きを心配するようになった」というのです。改訂版の本書にもこの部分は残りました。(本書の書名変更からも分かるように)IT業界は以前に比べればかなり成熟しており、「普通の産業」になりつつあるのは著者も認める通りですが、そうした意味で、この牧歌的な響きすらある逸話はシリコンバレーの神話のような趣があります。

『ソフトウェア開発者のキャリアハンドブック』
―キャリアの不確実性を進み続けるためのガイド

著者:Michael Lopp

翻訳:夏目大

出版社:オライリー・ジャパン

https://www.oreilly.co.jp//books/9784814401451/

今月のレビュワー

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』など、訳書に『デジタル音楽の行方』などがある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。

2026/03/18

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