サイバー攻撃がますます巧妙化し、従来型のウイルス対策だけでは企業の情報資産を守りきれない時代となっています。テレワークの普及やクラウドサービスの導入など、業務環境が多様化する中で、セキュリティの新たな課題も顕在化しています。
そのような状況の中で注目されているのが、EDR(Endpoint Detection and Response)です。本記事では、EDRの基本的な仕組みや従来のエンドポイントセキュリティとの違い、導入のメリット、EDRの重要性について解説します。
01 EDRとは?基本の仕組みと特徴

EDR(Endpoint Detection and Response)は、PCやサーバーなどのエンドポイントで発生するセキュリティインシデントを検知・分析・対応するための技術です。従来のウイルス対策ソフトだけでは対応しきれない高度な攻撃や内部不正に対して、早期発見と素早いレスポンスを可能にします。
EDRの主な特徴は以下の通りです。
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エンドポイント上のリアルタイム監視
端末の挙動を常に監視し、異常や攻撃の兆候を素早く検知します。 -
詳細なログ収集・可視化
操作履歴や通信記録を残し、後から攻撃の経路や影響範囲を分析できます。 -
インシデント対応機能
感染した端末の隔離、危険な動作の停止、通信遮断など、被害の拡大を防ぎます。 -
攻撃経路の分析
攻撃の発生源や侵入経路、拡散のプロセスを明らかにし、原因分析や再発防止につなげます。
このように、EDRは主に「検知」と「対応」を担うことで、企業のセキュリティをより強固にする重要な技術です。
02 従来のエンドポイントセキュリティ(EPP・NGAV)とEDRの違い

EDRを理解するために、従来のエンドポイントセキュリティ対策であるEPP(Endpoint Protection Platform)やNGAV(Next-Generation Antivirus)とどう違うのかを押さえておく必要があります。
EPPは、主にウイルスやマルウェアなど既知の脅威に対して防御する仕組みですが、製品によっては未知の脅威にも一部対応しています。多くの場合、シグネチャ(定義ファイル)による検知・ブロックを中心としています。
NGAVは、EPPの弱点である未知の脅威やゼロデイ攻撃への防御を強化した次世代型エンドポイント対策です。AIや機械学習による分析、振る舞い検知によって、未知の攻撃にも対応できるようになっています。
これに対して、EDRは「防御」に加え、「検知・対応」に特化している点が最大の特徴です。仮に攻撃を完全に防ぐことができなかった場合も、EDRはエンドポイント上で異常を速やかに検知し、感染端末の隔離やログの収集・分析、原因究明までをサポートします。
EPP・NGAV・EDRはそれぞれ役割や強みが異なります。複数のツールを組み合わせて活用することで、組織全体のセキュリティをより強固にできます
03 なぜ今、EDRが必要なのか?―変化するIT環境と高度化する脅威への対応

企業のIT環境は、大きく変化し続けています。テレワークの普及、クラウドサービスの活用、社外とのデータ連携の増加などにより、組織の「境界」があいまいになり、従来の境界型セキュリティでは十分な防御が難しくなっています。
一方、サイバー攻撃の手法も高度化しています。標的型攻撃の増加や、ゼロデイ攻撃、ファイルレス攻撃、クラウド認証情報の不正利用、内部不正など、従来型のウイルス対策では検知や対応が困難な新たな脅威が現実となっています。
従来の防御中心の対策だけでは不十分なため、万が一侵入された場合にも迅速に検知・対応できるセキュリティ対策が不可欠です。
EDRは、攻撃を受けた場合でも素早く異常を検知し、被害が広がる前に隔離や調査などのインシデント対応を行える点が大きな強みです。このように、万が一侵入されても迅速に対応し被害を最小限に抑える能力(セキュリティレジリエンス)の確保こそが、複雑化するサイバー攻撃に対抗するために不可欠です。
IT環境の変化と脅威の高度化が進む現在、EDRの導入は、多くの企業にとって重要なセキュリティ戦略の一つとなっています。
04 EDR導入による主な効果とメリット

EDRの導入により、セキュリティ強化だけでなく、運用効率化や継続的な改善など多様な効果が期待できます。
まず、EDRはエンドポイント上の異常や攻撃の兆候を素早く検知し、自動または半自動で感染端末の隔離やプロセスの停止などの初動対応を行うことができます。これにより、従来は対応に時間がかかっていたインシデントも、迅速に制御し被害の拡大を防ぐことが可能になります。
また、EDRが収集する詳細なログや情報は、攻撃の原因究明や影響範囲の特定、再発防止策の立案に活用できます。これにより単発的な対策にとどまらず、組織のセキュリティ運用全体を継続的に改善するための基盤となります。
さらに、EDRによるアラートの自動分類や優先度付け機能などにより、セキュリティ担当者は重要なインシデントへの対応に集中でき、人的リソースの有効活用と負担軽減にもつながります。
EDRの導入は「検知」と「対応」の強化に加え、業務の効率化や継続的なセキュリティレベルの向上にも大きく寄与します。
05 EDR導入後の継続的防御を支えるSOCの役割とは?

EDRの導入により、エンドポイントで発生する脅威の素早い検知と対応が可能となり、企業のセキュリティレベルは大きく向上します。さらに、このEDRの効果を最大限に発揮し、継続的な防御体制を維持するためには、専門的な運用組織であるSOC(Security Operation Center)との連携が効果的です。
SOCは24時間体制で企業全体のセキュリティ状況を監視し、EDRなどのセキュリティツールからのログやアラートをもとに、脅威の分析や対応の指示、状況報告などを行います。EDR単体でも端末ごとの異常は検知できますが、SOCによる全社的な監視や分析により、組織全体への影響や攻撃の全体像をより的確に把握できます。
SOCとEDRを連携させることで、以下のような高度なセキュリティ運用が可能となります。
- 24時間365日リアルタイム監視によるインシデントの早期発見
- 攻撃手法の傾向分析や脅威ハンティングによる新たなリスクの発見と対策の実践
- 組織全体のセキュリティ状況の可視化や経営層への報告
- アラートへの対応優先度の判定や実際の端末隔離など対応指示の迅速化
自社でSOCを構築・運用することも可能ですが、専門人材の確保やコストの面から、外部のSOCサービスを活用する企業も増えています。EDRとSOCを組み合わせて活用することで、持続的で組織的なセキュリティ運用を実現することができます。
06 まとめ

EDRの導入により、従来の『侵入を防ぐ』セキュリティから『侵入を前提とした』セキュリティへの移行が可能になります。EPPやNGAVで防げなかった攻撃も、EDRの継続的な監視と迅速な対応により、被害を最小限に抑えることができます。
特に、EDRが提供する詳細なログ分析とインシデント対応機能は、攻撃の全体像を把握し、同様の攻撃を未然に防ぐための貴重な情報源となります。現代のサイバーセキュリティにおいて、EDRは単なる検知ツールではなく、組織全体のセキュリティ戦略の中核を担う重要な技術と言えるでしょう。
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