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ITジャーナリストや現役書店員、編集者が選ぶ デジタル人材のためのブックレビュー 
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今月の書籍

レビュワー:高橋 征義

  • 『SREの探求』
  • 『エクストリームプログラミング』

SREについてさまざまな角度から理解を深めるための論考集

 2017年に『SRE サイトリライアビリティエンジニアリング Googleの信頼性を支えるエンジニアリングチーム』( https://www.oreilly.co.jp/books/9784873117911/ )が翻訳されて以来、日本でもシステムやサービスの運用を支えるための新しい方法論とそこに携わるエンジニアの呼称として「SRE」という言葉が広まりつつある。最近は各社の求人情報でもSREの募集をよく見かけるようになった。

 前掲書や『サイトリライアビリティワークブック』( https://www.oreilly.co.jp/books/9784873119137/ )は、SREの概念とその方法論について書かれたものだが、本書はそのようなSREについて、より広い視点からの寄稿を32編ほど集めたエッセイ・論文集のようになっている。SREにまつわるさまざまなトピックについて、章ごとに執筆者が異なるため、雰囲気としては同じ出版社の『ビューティフルコード』等の『ビューティフル〜』シリーズや『〜が知るべき97のこと』に近く、気軽な読み物として楽しめる。各章の内容は独立していて、どこからでも読めるので、気になるトピックから読むと良いだろう。

 第I部はSREをこれから導入するための内容になっている。これからSREを取り入れたいという場合、比較的小規模な組織であれば6章や7章を、大企業の場合は8章や10章を読むと良いだろう。また12章はDevOpsとSREについて2段落でまとめた意見が30件以上掲載されており、率直に言えばDevOpsとSREの関係については各人各様ばらばらに理解されていることが分かって興味深い。

 第II部はカオスエンジニアリングや機械学習といった関連トピックについて簡単に紹介する内容になっている。

 第III部はSREの技術的なトピックについて触れている。19章はドキュメンテーションについてで、普段あまり触れられることは少ないながらも重要な知見が得られる。また、23章はアンチパターンを知ることで逆説的にSREのことがよく分かるようになっており、SREを理解するのにも向いている。

 第IV部はSREの人間的、社会的な側面について、さらに広い視点から書かれている。第29章での精神障害のインクルージョンについて、第32章での社会運動とSREの可能性についての議論は、本書ならではのものと言えるだろう。

 評者は運用よりも開発に関わっていたためSREには詳しくないのだが、SREは「ソフトウェアエンジニアに運用チームの設計を依頼したときにできあがるもの」という言葉の通り、エンジニア寄りの概念である(という意見は本書12章でも多数寄せられていた)。SREやそれに準じた仕事をされている方はもちろんとして、ソフトウェア開発者でも、自分たちが開発しているシステムの運用をより良いものにするにはどうすればよいか、そのために何ができるのかを考えるためのきっかけとして、本書を読んでみることをお勧めしたい。

『SREの探求』

著者:David N. Blank-Edelman 編

監訳:山口 能迪

翻訳:渡邉 了介

出版社:オライリー・ジャパン

https://www.oreilly.co.jp/books/9784873119618/

アジャイルソフトウェア開発の源流の一つを新たな翻訳で学び直す

 「アジャイルソフトウェア開発宣言」に署名した一人であるKent Beckによる、アジャイル開発の代表的な開発手法のひとつ、エクストリームプログラミング(XP)を紹介する書籍である。原著は2005年に出版され、日本でも一度出版されたものの出版社の撤退により入手困難になっていたが、2017年に改めて翻訳されたものが本書である。

 「エクストリーム」(極端な)という呼称は、ソフトウェア開発において有益なものは極限までやろう、という意味から来ている。コードには常にテストがあるのが理想なので、テストから書こう(テストファースト)、またはチームでコミュニケーションをとるのは大事なので常にコミュニケートできるように同じ場所で開発しよう(全員同席)、といった具合である。XPではそのようなプラクティスと合わせて、その背後にある5つの「価値」、さらにプラクティスと価値をつなげる「原則」が定義されている。このような価値と原則に基づき、プラクティスを実践するのがXPである。

 現代の日本ではアジャイル開発手法としてはXPよりもスクラムの方が知られているかもしれない。スクラムは汎用的なプロジェクト管理・推進の手法として幅広く適用されることをめざしつつあるのに対し、XPはその名の通り、あくまでプログラミング・ソフトウェア開発にフォーカスし、具体的なプラクティスを掲げているところにスタンスの違いが現れている。

 XPの良い点に、小さく始められることがある。極論すれば、一人からでも可能だ。
「変化は常に自分のいるところから始まる。あなたが変えられるのは、あなただけだ。組織が機能していても、機能していなくても、あなたは自分にXPを適用することを始められる。」(第8章「始めてみよう」より)

 ソフトウェア開発に携わっていると、自分たちのやり方に不満を覚えていて、「何かもう少し良いやり方があるのではないか?」と強く思い、それを探してみたくなることもあるかもしれない。そんな時には本書を読むと、Kent Beckが「圧倒的なソフトウェア開発の実現」(「はじめに」より)に向けた熱い情熱を感じることだろう。そして、「なぜ自分がソフトウェア開発に携わっているのか、どうすればこの仕事から満足感を得られるのかを深く理解」(第1章より)できるようになるのではないか。チームの仕事の仕方は変えられなくても、あなたの仕事の仕方は変えられる。

 なお、本書はXPを知らない人向けの概論的な内容になっているため、具体的なXPの実践方法が知りたい方は『アート・オブ・アジャイル デベロップメント』電子版が参考になるだろう。( https://www.oreilly.co.jp/books/9784873113951/ )

『エクストリームプログラミング』

著者:Kent Beck・Cynthia Andres

翻訳:角 征典

出版社:オーム社

https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274217623/

今月のレビュワー

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高橋征義 (たかはし・まさよし)

札幌出身。Web制作会社にてプログラマとして勤務する傍ら、2004年にRubyの開発者と利用者を支援する団体、日本Rubyの会を設立、現在まで代表を務める。2010年にITエンジニア向けの技術系電子書籍の制作と販売を行う株式会社達人出版会を設立、現在まで代表取締役。著書に『たのしいRuby』(共著)など。好きな作家は新井素子。

2021/12/20

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