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今月の書籍

レビュワー:yomoyomo

  • 『ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか』

AIが加速する社会システムのハッキングを理解するために

昨年くらいからでしょうか。政治の分野、特に選挙に関する報道で、「ハック」や「ハッキング」という言葉を目にする機会が急増したように思います。もはやそれは、コンピューターネットワーク上のサイバー攻撃や不正アクセスといった意味合いを超え、制度の抜け穴を突く広義の概念として用いられています。

本書の著者は、情報セキュリティの分野で「この人を知らないのはモグリ」と言える第一人者です。当初は暗号学者として知られていましたが、次第に論じる領域を、コンピューターネットワークのセキュリティから実社会のセキュリティまで広げてきました。

本書でも、当然ながらコンピューターネットワークのセキュリティは主要なテーマです。特にAI時代の情報セキュリティについて章が割かれており、AIによって、速度、規模、範囲、複雑度という4つの次元でハッキングは加速すると著者は主張します。そして、情報セキュリティにとどまらず、政治、金融、法律をはじめとするあらゆる分野に見られるシステムを標的とし、システムの規則や規範の裏をかいて出し抜き、その意図をくじく「ハッキング」を論じています。

ハッキングは有害なものばかりではなく、それを通じてシステムの進化や社会の発展につながることもあります。しかし、ピーター・ティールが10億ドルもの資本利得税を回避した事例に見られるように、往々にしてハッキングが、富裕層や権力者の既得権益強化の有力な手段になっている問題について、本書では詳しく論じられています。

特に、情報と選択肢と主体性という、あらゆるシステムの土台をなす3つの要素が巧みにハッキングされることで、民主的なシステムが損なわれる様を論じながら、それに抗するシステムの柔軟性や回復力(レジリエンス)の重要性を強調しているところが本書の白眉と言えます。

さて、今年になって米国のドナルド・トランプ大統領が過激な関税政策を打ち出すと、それをなんとか回避したり出し抜こうとする動きも報じられています。これも本書で論じられるハッキングの試みといえます。それに限らず、読めば世界のニュースを見る目が変わる、本書は間違いなくそうした力を持った本です。

『ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか』

著者:ブルース・シュナイアー

翻訳:高橋 聡

出版社: 日経BP

https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/23/09/25/01018/

今月のレビュワー

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』など、訳書に『デジタル音楽の行方』などがある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。

2025/06/18

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