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今月の書籍

レビュワー:yomoyomo

  • 『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』

インターネットはまだ民主主義を救えるか──それとも台湾だけの奇跡か

かつてインターネットは、中央集権的な管理なしに情報を公開でき、誰とでもコミュニケーションができる「民主的な」テクノロジーだと信じられていました。筆者自身も、インターネットが情報格差を縮め、知の平等を促進する良き未来を実現するテクノロジーだと疑っていませんでした。

しかし、この10年近く、ITに対する反発を示す「テックラッシュ」という言葉の広まりでも分かるように、インターネットは格差を拡大し、憎悪や分断を煽(あお)る存在と見なされることが増えました。本書の重要な登場人物の1人であるJ・C・R・リックライダーが1979年に描いたコンピュータについての2つの未来像のうち、コンピュータが民主主義に奉仕する社会という「良いシナリオ」よりも、独占的な企業支配により可能性が抑制される「悪いシナリオ」に今は近いと考える人が多いかもしれません。ITと民主主義の間の溝は広がる一方に見えます。

その現状に対して、本書は「社会的差異を超えたコラボレーションのための技術」と定義される「プルラリティ(多元性)」というコンセプトを提示します。このコンセプトが、過去半世紀の技術政策で代表的だったテクノクラシー(技術官僚制)やリバタリアニズム(完全自由主義)を超える第三の道となり、協働テクノロジーと民主主義の共生により、多様性を持った社会を実現できると本書は訴えています。

テクノロジーという武器で社会課題を解決し、社会の役に立ちたいという願望は、多くのエンジニアに共通するものです。これまでも「シビックテック」といった言葉がありましたが、本書はそうしたボトムアップの協働を、あるべきデジタル民主主義と結びつける意欲的な試みです。

本書の内容に勇気づけられる人は少なくないでしょう。ただし、奇跡的な成功例として紹介される台湾の事例が、日本のようなより大きな国でも再現できるか、また本書の共著者であるオードリー・タンという、まさに「多元性」を体現する人物がいなくても可能かは、今後の検証を待つ必要があります。

その意味でも、本書の読者には、その理想を現実に適用する際の課題を考える上で重要な示唆を与えてくれる東浩紀『訂正可能性の哲学』、特にその第2部「一般意志再考」における「人工知能民主主義」批判の議論を読まれることをお勧めします。

『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』

著者:オードリー・タン、E・グレン・ワイル

翻訳:山形浩生

出版社:サイボウズ式ブックス

発売元:ライツ社

https://cybozushiki.cybozu.co.jp/books/2025/04/plurality.html

今月のレビュワー

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』など、訳書に『デジタル音楽の行方』などがある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。

2025/09/17

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