今月の書籍
レビュワー:新野 淳一
- 『作って理解する仮想化技術──ハイパーバイザを実装しながら仕組みを学ぶ』
意欲的なエンジニアのニーズを満たす、Rustで学ぶ仮想化技術
現代的なアイデンティティシステムと、将来あるべきそれを体系的に学ぶ
本書はそのタイトル通り、簡易な仮想化ハイパーバイザを、Rust言語を用いて最初から最後まで作りあげることを、技術的な解説と具体的なコードを通じて詳しく解説している。
この解説を通して読者は、仮想化ハイパーバイザの仕組みや役割だけでなく、その基盤となっているコンピュータのプロセッサやメモリの動きについても詳しく知ることになる。
オンプレミスの時代には、サーバといえば物理サーバのことを指していたが、クラウド時代のサーバとは、事実上、仮想化技術によって作り出されたインスタンスとなっている。仮想化技術は現代のITインフラとして欠かせない技術だ。
システムが問題なく動いているときにITエンジニアが仮想化技術について気にすることはほとんどない。しかし、システムがトラブルに見舞われたときの原因の切り分け、システムの性能や利用効率などの徹底的な最適化など、仮想化技術を理解せずに切り抜けることが難しい場面は必ず起こりうる。
そのとき、本書を通して理解できる、ブートローダーから始まる仮想マシンの起動の順序や仕組み、マルチCPUやメモリなどのコンピューティングリソースの配置や仮想化の意味、物理デバイスと論理デバイスの役割、ファイルの読み書きの内部で起きていることなどが理解できていれば、より早く問題や課題の解決に近づける確率が高くなるだろう。
しかし一般的に、本書の内容は多くのITエンジニアにとって業務にすぐに役立つものではない。それゆえに、本書はIT分野の基盤技術から学びたいと考えている意欲のある方、あるいは純粋に仮想化技術を学びたいと考える知的好奇心を持つ方々のための本と言ってよいかもしれない。
手本となるコードが最近話題のRust言語で書かれていることも、そうした知的好奇心や学ぶ意欲を持つ方々にとって本書をさらに魅力のあるものにしているだろう。本書の詳細かつ分かりやすい内容は、確実にそうした人々のニーズに応えるものになっている。
『作って理解する仮想化技術──ハイパーバイザを実装しながら仕組みを学ぶ』
著者:森 真誠
監修:品川高廣
出版社:技術評論社
今月のレビュワー

新野 淳一(にいの・じゅんいち)
ITジャーナリスト/Publickeyブロガー。一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA)総合アドバイザー。日本デジタルライターズ協会代表理事。大学でUNIXを学び、株式会社アスキーに入社。データベースのテクニカルサポート、月刊アスキーNT編集部副編集長などを経て1998年フリーランスライターに。2000年、株式会社アットマーク・アイティ設立に参画。2009年にブログメディアPublickeyを開始。2011年「アルファブロガーアワード2010」受賞。
2025/11/19

















