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ニッポンの想像を超える未来
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100年後の水族館帰りの家族連れ(プロローグ)

子ども:100年くらい前は、水族館はもっとすごく大きかったんだってね。

親:そうだね、今は、大きな水族館は少なくなったね。

子ども:VRはあった?

親:ないはずだなぁ。VRは今でも、まだ100点満点とはいかないけど、それでも100年前に比べると雲泥の差じゃないかな。今はジャンプした時のイルカの視界や、深海の様子はかなりのリアリティをもってVRで疑似体験できる。大きな水族館の代わりにコンビニに行くような気軽さで水中世界を楽しめるのもあるね。

子ども:どこの街にも水族館があるし、水族館ってすぐそばにあるものだと思うよ。

親:そんな水族館での観察の結果、水中生物が人とのやりとりを面白がっていることもわかってきているみたい。そこで、マンションのエントランスに水槽が置かれていて、生物とのふれあいを日常的に楽しむことができるスペースもあったりするよね。

想像を超える未来へと挑む現在の水族館へ

“魚の観察”ではない、水を楽しむ水族館とは

中村さん以前の水族館と以降の水族館

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 現在の先進的な水族館についてお話を伺うのは水族館プロデューサーの中村元さん。都会の空をペンギンやアシカが泳ぎ回る天空のオアシス、マイワシの大群が刻々と形を変えながら泳ぐ大水槽――中村さんは従来の概念を覆して水族館の新しい魅力を引き出してきた。

 最初に中村さんプロデュースの水族館を訪れた人たちは、「今までと何か違う」と感じたかもしれない。

 これは、水族館の成り立ちとも関係がある。それまでの水族館は、「動物園の水中版」として、動く魚を実際に見て、それぞれの生態や行動について造詣を深める「生物、もっと言えば“理科教育の場所”」という側面が強かった。さまざまな種類の生物を分類して展示し、客はそれぞれの水槽を観察する。例えば、動物園では「ライオンとトラは同じネコ科の動物だけど、こんなところが違う」と、それぞれの動物を実際に目で見て確かめる。水中生物についても同じことをやろうとして生まれたのが水族館だというのだ。

 確かに、生涯学習という視点からすれば、動物園も水族館も非常に有用な施設だ。知的好奇心を満たし、生物に関する教養を身につけることができる。象やイルカなど、身近にはいない本物の動物と出会える場所でもある。ただ、今のような水族館が登場する以前、大人が楽しめる場所として水族館に足を運ぶことはあっただろうか。そんな疑問が中村さんには、あった。

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 中村さんは言う。「長年、水族館に勤務していたのですが、私自身、実は水槽の魚を見ていてもおもしろくない(笑)。でも水族館にいること自体は好きだった。どうしてだろう?と考えました。すると、飽きずに見ていられる水槽があることを思い出しました。その水槽は、訪れるお客さんたちにも人気があり、立ち止まる人も多い。よくよく観察してみると、そこにはたくさんの種類の魚が泳いでいて、奥行きもあり、まるで海の中をのぞいているようでした。『そうか、大人にとっては本物の生き物に会うことだけでなく、自然界を垣間見る体験も魅力的なんだ』と、その水槽を見ていて気付いたのです。

 海の中を模した水槽は、きれいに流れていく泡を見つけたり、水中で魚のうろこが反射してキラキラと光っていたり、陸上とは違う世界があります。子どもの頃に水中眼鏡を付けて海や川へ潜ったときに見た光景を、追体験しているのかもしれません。水族館は自然体験を味わえる場所でもあるのです。」

 “理科教育型”水族館は必要だが、魚に興味がない人にとって縁遠い存在となってしまっていた。そこで、せっかくの水族館という施設を、「大人が行きたい」と思う場所にするにはどうするか、何が大人の心を刺激するのか。中村さんは考えるようになったという。水族館の新しい時代が始まった。

水中世界を塊で展示。「見る」から「体感する」へ

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 水中の世界をのぞき見ることができるというのは、動物園にはない水族館ならではの面白さだ。中村さんがリニューアルやオープンに関わった水族館では、海の中や川の中をそのまま再現したかのような展示が多く、どれも新鮮で迫力がある。キーワードは「水塊」だ。

「海の中を塊で持ってこようと考えたんです。海や川に潜ったときの水中の光景や水の中に漂う浮遊感を、どうにか水族館で再現できないと考えて――潜って見えるものを全部、塊で水槽に持ってこようと思いつきました。岩の間を縫って泳ぐ魚の群れ、暗がりに差し込む陽光、海底を這うように歩く小さな水中生物。そうした美しい水塊をつくって水の中の自然を疑似体験できることが水族館の新しいステージだと考えました。」

 水族館では魚を“展示すべき”という考えは根強いものの、いろんな魚が一様に泳いでいる景観を見せるという展示も少しずつ増えてきていた。中村さんの斬新なアイデアが世に知られるきっかけの一つとなった新江ノ島水族館でも、大きな水塊が人気を集めた。新江ノ島水族館は、「えのすい」の愛称で親しまれている。

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「水塊の発想は、沖縄美ら海水族館で大水槽『黒潮の海』を見てからです。大海原をイメージした圧倒的な水中世界。あれだけの水量と物理的な水槽の大きさはとても真似できません。それならば、小さな水槽でも大きく見せる工夫をしようということで、水塊の展示を考え始めたのです。」

 美ら海水族館は、敷地が広く大きな水槽を設置する余裕があったが、えのすいでは難しい。そこで、大水槽の迫力の代わりに「体感」を重視することに切り替えた。水中世界を体感してもらうために、水塊の展示では浮遊感を重視している。その浮遊感をわかりやすく感じさせてくれるのがクラゲだ。えのすいでも、さまざまな種類のクラゲを展示するスペースがあるが、どこの水族館でもクラゲは人気がある。しかも、色がキレイとか触手が長いといった珍しいクラゲではなく、たくさんのミズクラゲがふわふわと漂っている水槽に、お客さんは引き込まれてしまう。珍しいクラゲが1匹、2匹いるよりも、浮遊感のみで成り立つような水中世界に人は引き寄せられる。どんな魚が泳いでいるかはさほど問題ではなく、海の中や川の中の美しさが表れている展示に魅力を感じているのだ。

 水塊の展示では、暗くして水槽の角を見せないようにするなど、水槽を意識しないような見せ方を工夫している。さまざまな技を使って海の中の景観を再現しているのだ。

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