前回のコラムでは、境界防御型セキュリティがなぜ限界を迎えているのかを統計データをもとに整理しました。リモートワークやクラウド利用が当たり前になった現在、「ゼロトラスト」の思想を取り入れる必要性は、多くの方がすでに実感しているはずです。
検討を進める中で、次に直面しやすいのが、この悩みではないでしょうか。
「ゼロトラストが必要なのは分かった。
ただ、何を基準に、どのサービスを選べばよいのか分からない。」
ゼロトラスト関連の製品やサービスはすでに数多く、ID管理、デバイス管理、ネットワーク制御、データ保護など、対象領域も多岐にわたります。
機能表を見比べても、比較軸が無いために判断が難しくなってしまうケースも少なくありません。
本コラムでは、ゼロトラストサービスを比較する際に、まず整理しておきたい考え方と、そのうえで役に立つ比較の視点を、段階的に考察します。

01 Step1:比較の前にまず「何を守りたいか」を整理する
ゼロトラスト検討でよくある失敗は、いきなり製品比較から始めてしまうことです。機能表だけを横並びで比較すると、導入数の多さや機能の豊富さだけで判断してしまいがちですが、自社にとって最適ではない製品であることが少なくありません。

比較が難しくなってしまう原因は、比較の前提が揃っていないからです。
まず考えるべきなのは、「自社は何を守りたいのか」。
- クラウド上の重要なデータなのか
- リモートワーク時のアクセス環境なのか
- 内部不正やアカウント乗っ取りなのか
- あるいは法規制・監査対応なのか
目的によって、重視すべきポイントや必要な対策は大きく異なります。
ここが曖昧なままでは、導入後に「運用が回らない」「想定外の制約が増えた」といった問題が生じやすくなります。
例えば、クラウド上のデータを守りたい場合には、単にアクセス制御を強化するだけでなく、
- ユーザーやデバイスの状態を継続的に確認できるか
- アプリケーションごとに最小権限で制御できるか
- データの持ち出しや共有といった振る舞いを把握・制御できるか
といった仕組みが必要になります。
「何を守るか」が明確になることで、比較の軸も自然と定まっていきます。
02 Step2:ゼロトラストは“単一製品”ではないと理解する
次に押さえておきたいのは、ゼロトラストは特定の製品やサービスを指す言葉ではない、という点です。
ゼロトラストとは、ユーザー、デバイス、アプリケーション、データといった複数の要素を組み合わせ、アクセスのたびに検証する考え方です。

そのため、提供形態として複数の機能をパッケージ化している場合はありますが、「これだけ導入すればゼロトラストが完成する」という選び方は、あまり現実的ではありません。
こうした特性があるため、単純な機能比較ではなく、「自社の優先順位に合う構成を組めるか」という視点が重要になります。
03 Step3:ゼロトラストサービスを比較する4つの視点
ここまで前提を整理したうえで、ようやく比較が意味を持ちます。
ゼロトラストサービスを見比べる際に、特に有効な視点は次の4つです。

1)適用範囲
自社が守りたい領域(ID、端末、クラウド、オンプレミスなど)を、無理なくカバーできるかを確認します。
「幅広く対応できる」ことよりも、必要な範囲に過不足なく適用できるかが重要です。
2)運用負荷
ゼロトラストは、導入後の運用が成否を左右します。
ポリシー設定や例外対応が複雑になったり、設定作業が属人化したりしないよう、自動化の度合い、管理画面の分かりやすさ、例外運用の設計などを確認します。
3)可視化
誰が、いつ、どこから、どの端末で、何にアクセスしているのか。
この情報を把握できることは、インシデント対応だけでなく、運用改善や説明責任にも直結します。ログの粒度、保存期間、ダッシュボードの使いやすさ、外部連携などを確認します。
4)サポート
ゼロトラストは導入して終わりではなく、運用で成熟させるモデルです。
設計・導入から運用トレーニング、障害時の体制まで、必要なタイミングで支援を受けられるかどうかも重要な比較ポイントです。
04 Step4:ゼロトラストサービスを比較するための簡易チェックリスト
最後に、複数のゼロトラストサービスを第三者的・中立的に比較するためのチェックリストを紹介します。文中で紹介した4つの視点に加え、設計の前提も含めて整理しています。
検討中のサービスごとに「はい/一部対応/いいえ」で整理してみてください。

【1】設計の前提
- □ クラウド利用やリモートアクセスを前提に設計されている
- □ VPNを前提とせず、アプリケーション単位でアクセス制御できる
- □ ユーザーやデバイスの状態を継続的に評価する仕組みがある
【2】適用範囲
- □ クラウドアプリ(SaaS)へのアクセス制御に対応している
- □ オンプレミス/レガシーシステムとの連携実績がある
- □ 拠点や場所を問わず、同一ポリシーで制御できる
【3】運用設計
- □ ポリシー設定・変更が直感的に行える
- □ 例外対応(特定ユーザー・端末など)を無理なく扱える
- □ 自動化やテンプレート化された運用が用意されている
【4】可視化・ログ
- □ ユーザー・デバイス・アプリ単位でアクセス状況を確認できる
- □ 異常なアクセスや失敗した試行を把握できる
- □ ログの保存期間や外部連携が明確になっている
【5】サポート体制
- □ 導入設計や初期構築の支援が用意されている
- □ 運用フェーズでの相談・改善支援が想定されている
- □ 日本語でのサポートや国内実績が確認できる
このチェックリストは、「最もチェックが多いサービスを選ぶ」ためのものではありません。どの項目で差が出るのか、そして自社の状況を整理するための整理ツールです。
比較を通じて見えてくるのは、製品やサービスの違いだけではありません。
「自社はどこから手を付けるべきか」という、次に考えるべきテーマです。
ゼロトラストは、いきなり完成形を目指すものではありません。
次回は、比較結果を踏まえ、検討を前に進めるために押さえておきたい考え方を整理していきます。