ゼロトラストは、従来の境界防御に代わるセキュリティアプローチとして注目されています。しかし、導入を検討する中で「認証やアクセス制御の運用負荷が増えるのでは?」「コストが高いのでは?」といった不安を感じる方も少なくありません。
本記事では、ゼロトラスト導入時に直面しやすい課題と、その解決策をわかりやすく解説します。さらに、導入によって得られるメリットも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
01 ゼロトラストとは?信頼を前提としないセキュリティアプローチ

ゼロトラストとは、社内外を問わずすべてのアクセスを無条件に信頼せず、認証やアクセス制御を継続的に検証するセキュリティアプローチです。従来の境界型防御は、社内を「安全」、社外を「危険」とみなしていましたが、テレワークやクラウド利用の拡大でその境界は曖昧になりました。
ゼロトラストでは、社員であってもアクセスごとに安全性をリスクベースで継続的に検証し、必要に応じて追加認証や権限チェックを行うことで、被害を最小限に抑えます。
ゼロトラストは単一の製品ではなく、『ID管理』『端末セキュリティ』『ネットワーク制御』『ログ管理』『ポリシーエンジン』など複数の要素を組み合わせたセキュリティアーキテクチャです。
02 ゼロトラスト導入で注意すべき課題とは?

ゼロトラスト導入時には、主に次の4つの課題が考えられます。
- 初期の導入コストが発生する
- 運用・管理にかかる負荷が増える可能性がある
- ユーザーの利便性が一時的に低下する可能性がある
- 既存システムとの連携が難しい場合がある
ゼロトラスト導入でまず直面するのが初期コストです。ID管理ツールや端末保護ソフトといった新たな仕組みの導入費用や、外部への導入支援・初期設定を依頼する費用が発生します。ただし、高価な機器を一括導入するのではなく、月額制のクラウドサービスを選んだり、リスクの高い部署から段階的に始めたりすることで、初期の導入コストを抑えることが可能です。
初期コストをクリアした次に課題となるのが、日々の運用負荷です。ユーザーや端末ごとの権限管理、アラート対応、ログ監視といった新たな作業が増えるため、情報システム部門の負担が高まる可能性があります。
こうした管理者側の負担に加え、利用者であるユーザーの利便性にも配慮が必要です。多要素認証や厳格なアクセス制御を導入することで、スマートフォンでの認証など新しい操作に慣れるまで、一時的に利便性が低下する場合があるからです。もっとも、この課題はSSO(シングルサインオン)や認証の自動化を組み合わせることで、最小限に抑えることができます。
さらに、既存システムとの連携も大きな課題となり得ます。古い業務システムなどがゼロトラストの要件(認証やアクセス制御)に対応していない場合、追加の設定やシステム改修が必要になることがあります。クラウドサービスやAPI連携で改修の負担を軽減できるケースもありますが、システムの仕様によっては大幅な改修が求められることも念頭に置くべきでしょう。
03 ゼロトラスト導入で得られる4つの主要メリット

ゼロトラスト導入において、企業が得られる主なメリットは、以下の4つです。
- セキュリティレベルの向上
- テレワーク環境でも安全性を確保しやすくなる
- クラウドサービスを安心して活用できるようになる
- IT資産の可視化と運用効率化が進む
ゼロトラストでは、すべてのアクセスを無条件に信頼せず、必要に応じて継続的に検証することで、内部不正やマルウェアの横展開リスクを低減できます。企業のセキュリティを強化するには、複数の仕組みを組み合わせることが重要です。例えば、EDR(Endpoint Detection and Response:端末上の脅威を検知・対応する仕組み)や、多要素認証(MFA:ログイン時に複数の確認手段を使う方法)、マイクロセグメンテーション(ネットワークを細かく分割して管理する方法)などがあります。これらを活用することで、サイバー攻撃の兆候を早めに察知し、被害の拡大を防ぐことができます。
従来の境界型セキュリティでは、社外からのアクセスは危険とみなされ、VPN接続が必須でした。ゼロトラストは、場所を問わず「すべてのアクセスを信頼しない」ため、自宅や外出先からのアクセスでも、その都度本人確認や端末の安全性を検証します。これにより、社内にいる時と同じ高いセキュリティレベルを維持でき、情報漏えいのリスクを抑えながら、安全で柔軟なテレワーク環境を構築できます。
クラウドサービスの利用においては、IDaaS(Identity as a Service:クラウド型のID管理サービス)やCASB(Cloud Access Security Broker:クラウド利用の安全性を確保する仕組み)を導入することで、社員のアクセスを一元的に管理でき、設定ミスやシャドーIT(会社が把握していないサービスの利用)によるリスクを減らすことができます。
さらに、どの端末やソフトウェアが使われているかを把握できるようになるため、不要なツールの整理や、セキュリティ上問題のある使い方の特定が可能になります。これにより、少人数の情報システム部門でも、効率的で戦略的なIT運用がしやすくなります。
04 ゼロトラスト導入をスムーズに進めるための重要な対策

ゼロトラスト導入を成功させるには、次の4つを押さえておくことが重要です。
- 段階的に導入範囲を広げる
- ユーザー教育と社内周知を徹底する
- 自社に合うソリューションを選定する
- 外部の専門家やベンダーを活用する
初期段階では、リスクの高い領域から優先的に導入することが効果的です。例えば、社内の重要システムへのリモートアクセスに多要素認証(MFA)を導入し、その効果を検証しながら適用範囲を広げていくようにすることです。
また、従業員の利便性低下を避けるには、事前の教育と社内周知が不可欠です。説明会や操作研修などにより理解を促し、現場の不安を解消しましょう。
さらに、自社に適したソリューションを選ぶには、セキュリティリスクや既存システムとの連携性を事前に評価することが重要です。トライアル導入を活用し、過剰な機能を避けて最適な構成を見極めます。
社内にセキュリティの専門家がいない場合や、情報システム部門の人員が限られている場合には、外部のコンサルタントやITベンダーといった専門家の力を借りることをお勧めします。プロの支援を受けることで、自社の状況に合った、より安全で質の高いセキュリティ体制を構築できます。
05 ゼロトラスト導入に向けた準備のポイント

ゼロトラスト導入を検討する際に必要な事前準備と、自社にとって最適な判断を下すための基準について、以下の項目を確認しましょう。
- 守るべき情報資産と対象範囲を明確にする
- 現状のセキュリティリスクを客観的に評価する
- 段階的導入で十分なケースを見極める
- 費用対効果を試算して導入の妥当性を判断する
- ベンダーからの提案を比較・精査する
まず、守るべき情報資産を可視化し、優先度に応じて導入対象を絞ることが重要です。全社一律の対策ではコストや負荷が膨らむため、機密性や業種特性を踏まえて段階的に進めましょう。
また、現状のセキュリティリスクを客観的に評価し、自社にとって必要な対策範囲を見極めることが不可欠です。部分導入でも十分な効果を得られるケースも多く、費用対効果の目安を検討しながら投資の妥当性を判断しましょう。
導入は自社にとって最も深刻な脅威、つまり具体的なケースを見極め、段階的に対策することが有効です。例えば、「テレワーク端末からのマルウェア侵入」や「特定部署を狙った標的型攻撃」といった脅威が最も懸念される場合、まずはそのリスクを直接的に低減できるリモートアクセス環境や端末保護の強化から導入を計画します。
守るべき情報資産の優先度に応じて段階的に導入することで、コストや運用負荷を抑えつつ、費用対効果の高いセキュリティ投資を実現できます。まずは自社の状況を分析し、どこから手をつけるべきか見極めましょう。
ゼロトラスト導入にかかる費用と効果を比較検討し、投資の妥当性を判断します。効果とは、例えば「万が一情報漏えいが発生した場合の想定被害額をどれだけ抑えられるか」といったリスク軽減価値です。コストと効果を具体的に試算することで、セキュリティ投資が単なる支出ではなく、事業を守るための合理的な投資であることを客観的に示し、経営層の合意形成にも役立ちます。
外部の専門家やITベンダーの支援を仰ぐ際には、複数の提案を比較検討することが不可欠です。提案内容を受動的に採用するのではなく、自社のセキュリティ課題、既存システム環境、および運用体制との整合性を評価基準とし、多角的に評価することで、過剰投資やミスマッチを防げます。
06 まとめ

ゼロトラストは、社内外を問わずすべてのアクセスを都度検証し、認証やアクセス制御を組み合わせてセキュリティを強化する最新のアプローチです。導入時には初期コストや運用負荷、ユーザー利便性の低下、既存システムとの連携などの課題がありますが、段階的な導入や教育、適切なソリューション選定でこれらの課題を解決できます。
また、ゼロトラスト型セキュリティの導入に関する疑問や不安がある場合は、専門家に相談することで適切な対応策を見つけやすくなります。
NTTドコモソリューションズでは、ゼロトラスト型セキュリティの導入・運用に関する豊富な実績を活かし、あらかじめ設計されたテンプレート化されたサービスを提供しています。複雑な初期設計の負担を軽減しながら、短期間での導入を可能にしています。
また、セキュリティオペレーションセンター(SOC)による監視・運用支援や、Microsoft 365(※)との連携による不正アクセス対策など、実用的な機能も備えており、日々の運用負荷を軽減しながら、セキュリティレベルの向上を図ることが可能です。
セキュリティ課題の解決に向けて、ゼロトラストの導入を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
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