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脳型コンピューター実現への複数のアプローチ

脳型コンピューター実現のアプローチは、大きく2通りに分かれる。1つは「脳シミュレーション」、もう1つは「生物にヒントを得た認知アーキテクチャー」だ。 脳シミュレーションは、実際の脳の動作を厳密にシミュレーションすることで、脳のようなシステムを作ることを目的としている。神経細胞の働きを綿密に模倣し、それらを脳と同じように階層化し、コンピューターをつくるというものだ。米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)の「SyNAPSE」プロジェクトが代表的なもので、米IBMやスタンフォード大学、コーネル大学などが参加している。

SyNAPSEでは、神経細胞をつなぐ「シナプス」の機能を模倣しながら微細化を進めるシミュレーションを行っている。2007年にはマウス並みの5500万ニューロンを、2008年には猫並みの10億ニューロンのシミュレーター作成に成功した。これはスーパーコンピューターの上で動くシミュレーターだが、処理は実際の脳の動きに対して600倍以上もかかっていた。

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このほか、スタンフォード大学でも、2014年5月に人間の脳をモデル化した小型の電子回路「Neurogrid」の開発に成功した。 そこで米I B Mは2 0 1 4年8月、SyNAPSE専用のハードウエアを開発し、発表した。「TrueNorth」と呼ぶチップで、プロセス(回路の幅)は28ナノメートル、4096個のコアを搭載し、使われているトランジスタの数は54億以上に達する。これが今までのコンピューターと違うのは、その構造である。従来のようにメモリーの情報をCPUが処理するのではなく、コア同士の電気信号のやり取りによって情報を処理する。最初に入力信号を受け取ったコアは、指定した別のコアへと信号を送る。それを繰り返すことで最終的な出力結果を得る。人間の脳が行っているニューロンの結合と同じ原理で動いているのだ。 このチップを用いることで、100万ニューロン、2億5600万シナプスを実時間でシミュレーションできる。米IBMでは2011年にも同様の原理で動くチップを開発しているが、そのときのチップはニューロンが256個、シナプスは26万2144個だった。シナプス数は約1000倍、ニューロン数は約4000倍に増加した。また、新しく開発したチップでは、400×200ピクセル、30フレーム/秒の動画から、リアルタイムに物体を認識できることが確認できた。消費電力は70ミリワットと少なく、脳の機能と省エネ性を併せ持つハードウエアが生まれた。 このように開発が進んでいる脳型コンピューターであるが、まだ課題もある。人間の脳には1000億を超えるニューロンがある。2014年時点の100万ニューロンのハードウエアとは規模に大きな開きがある。また、米IBMのTrueNorthは神経細胞のつながりの強さを、あらかじめチップに組み込んでおく必要がある。すなわち、リアルタイムで認識ができるコンピューターと、自分で学習しながら成長するコンピューターとの融合は、まだ実現できていない。 もう1つのアプローチである「生物にヒントを得た認知アーキテクチャ」は、マクロな視点から脳を見る。人間の知的活動を「知覚」「判断」「行動」などにモデル化し、それらをソフトウエアで再現する試みだ。ここでは、人間の知的活動を脳の機能ごとにモジュール化し、それを統合して動かすことで知的活動を実現するコンピューターをつくる。カーネギーメロン大学の「ACT-R」という認知アーキテクチャがその代表例だ。 いずれのアプローチの脳型コンピューターも、従来型のコンピューターとは異なり、認識など、脳が得意とする分野での実用化を目指す。脳型コンピューターの夢が実現する日が、計算機科学の進展と、脳科学の発達により、着々と近づいてきている。

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