世の中に存在するさまざまな“モノ”がインターネットに接続されることで、新たな価値が生み出されることが期待される「IoT(Internet of Things)」。すでに生活にかかわるサービスや産業界の一部からIoTの活用が始まっている。そうした中で、現状のIoTの適用範囲をさらに押し広げた「IoE(Internet of Everything)」の概念が提唱されている。物理的な“モノ”に限らず、人や生体の行動、さまざまなデータ、業務の仕方などのプロセスまで“あらゆるモノ”をインターネットで解析し、よりよい社会や産業の創出につなげようとしている。
「IoT」の文字をよく目にするようになってきた。IoTは、Internet of Thingsの略称で、日本語では「モノのインターネット」と訳されることが多い。インターネットにはもともと、コンピューターなどのIT機器がつながって情報ネットワークを形成していた。そのインターネットに、IT機器以外のさまざまな「モノ」を接続して、情報をやり取りできるようにするのがIoTである。
IoTにはいくつかの側面がある。パーソナルに利用する機器がインターネットに接続する形。体組成計や血圧計をインターネットに接続して健康データを管理できる製品やサービスはすでに実用化されている。
産業にもIoTによる変革が押し寄せている。工場の生産システムなどをインターネットに接続して、企業をまたいで情報を共有するといった形での利用だ。効率的な製造や国際競争力の向上を目指して、世界で取り組みが進んでいる。ドイツで提唱された製造業の次世代の姿を示す「インダストリー4.0」はIoTの1つの具体例だ。
IoTの推進へ世界が舵を取る中で、「IoE」という概念が提唱されている。「Internet of Everything」の略で、もともとは米シスコシステムズが提唱した概念だ。IoTとIoEは何が違うのだろうか、IoEによって社会や生活はどのように変わるのだろうか。
物理的な「モノ」に限らずインターネットに接続する
まず、IoTとIoEの違いから紐解いていきたい。知的情報環境コンピューティングの研究者で慶應義塾大学環境情報学部教授 兼 大学院 政策・メディア研究科委員長の徳田英幸氏は、次のように説明する。「IoTは、その言葉が日本に持ち込まれたときに、モノのインターネットと翻訳されました。そこから、目に見えるモノ、特に人工物をインターネットに接続する概念として認知されるようになりました。一方、IoEはあらゆるモノがインターネット接続の対象になる概念です。人工物だけでなく、人や生物、さまざまなデータ、ビジネスプロセスまで、インターネットに接続するのがIoEの姿です」
徳田氏は、いわゆるIoTを「狭義のIoT」だと説明する。IoTには複数のフェーズがあり、日本で現在IoTと呼ばれているのは、最も狭い概念の「IoT-I」だという(図1)。
「IoT-Iはモノや人工物がインターネットに接続する狭義のIoTの概念です。その先に人や生物がインターネットに接続するIoT-II、データやプロセスも含めてインターネットに接続するIoT-III、さらにあらゆるモノがインターネットに接続するIoT-IVがあります。これらをすべて包含した概念がIoEです」(徳田氏)