IAM(Identity and Access Management:アイデンティティおよびアクセス管理)はクラウドやITシステムのセキュリティ対策として不可欠な仕組みです。ユーザーIDやアクセス権限を適切に管理することで、情報漏洩のリスクを大幅に軽減し、セキュリティと業務効率の両立が可能になります。
本記事では、「IAMとは何か?」という基本から、ゼロトラストとの関係性、導入のメリット・注意点、そしてIAMを補完するIGAについて、わかりやすく解説します。
01 IAMとは?IDや認証情報などを安全に管理する技術

企業や組織では、従業員がさまざまなアプリケーションやデータにアクセスする必要があります。しかし、全員に同じ権限を与えると情報漏洩や不正操作のリスクが高まり、一方で権限を厳しくしすぎると業務に支障が出ます。
IAMは、このセキュリティと利便性のバランスを保つために重要な枠組みであり、「アイデンティティ管理」と「アクセス管理」を統合的に行う仕組みです。これには、認証(Authentication)と認可(Authorization)などのアクセス制御が含まれます。
認証とは「あなたは誰か?」を確認するプロセスです。パスワードや生体認証などを用いて本人確認を行います。
一方、認可は「あなたは何ができるか?」を決定するプロセスです。認証されたユーザーに対して、どのリソースにどの操作を許可するかを制御します。
たとえば、従業員が社内システムにログインする際には、まず認証によって本人確認が行われ、その後、認可によって「営業資料は閲覧可能だが、経理データにはアクセスできない」といった操作権限が決定されます。
近年のリモートワークの普及により、従業員が自宅や外出先から会社のシステムにアクセスする機会が増えたため、「社内ネットワーク=安全」という前提の従来の境界型セキュリティでは不十分になりました。
IAMを適切に構築することで、アクセス場所や時間、利用端末などの条件に応じて、動的なアクセス制御が可能になります。
02 ゼロトラスト実現に不可欠なIAMの仕組み

ゼロトラストとは、「すべてのアクセスを信頼しない」という前提に基づき、常に検証を行うセキュリティモデルです。従来の「社内ネットワーク=安全」という考え方とは異なり、アクセス元やユーザーの信頼性を都度検証することが求められます。
このゼロトラストの考え方を実現するうえで、IAMは中心的な役割を果たします。ゼロトラストでは、誰が・どこから・どのリソースにアクセスしようとしているか、そしてそのリクエストが安全かどうかを常に検証し、信頼できると判断された場合のみアクセスを許可します。
IAMは、以下のようなゼロトラストの要件を支える技術基盤となります。
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ユーザーの認証と認可の仕組み
アクセスのたびに本人確認と権限確認を行うことで、信頼性を確保します。 -
動的なアクセス制御
アクセス場所や時間、利用端末などの条件に応じて、リアルタイムで認可ポリシーを適用します。 -
監査ログの記録と分析
すべての操作履歴を記録し、異常なアクセスを検知・対応するための基盤となります。
またゼロトラスト実現には、IAM以外にもソフトウェア定義境界(SDP)(※1)やネットワークアクセス制御(NAC)(※2)、マイクロセグメンテーション(※3)といった技術も重要な役割を果たします。
※1 ソフトウェア定義境界(SDP:Software Defined Perimeter)
認証されたユーザーのみに必要なリソースへのアクセスを許可し、それ以外のユーザーにはリソースの存在自体を見せない技術。
※2 ネットワークアクセス制御(NAC:Network Access Control)
端末の状態(ウイルス対策の有無、OSの更新状況など)をチェックし、基準を満たしていない端末の接続を制限する技術。
※3 マイクロセグメンテーション
ネットワーク内部を細かく分割し、各セグメントにアクセス制御を行うことで、万が一侵入されても攻撃の拡散を防ぐ技術。
これらの技術とIAMを連携させることで、例えば「認証されたユーザーにしかシステムの存在自体を見せない(SDP)」、「セキュリティ対策ソフトが最新のPCからしかアクセスを許可しない(NAC)」「営業部門のユーザーは営業システムのセグメントにのみアクセス可能とし、他部門のセグメントへの通信を遮断する(マイクロセグメンテーション)」といった多層的な防御が可能になり、ゼロトラストのセキュリティをさらに強固なものにします。
03 IAMで実現できること

IAMで実現できる主な機能は、以下の通りです。
- ユーザーの認証と認可:本人確認と適切な権限付与を行う機能
- グループの設定:複数のユーザーをまとめて管理する機能
- ポリシーの設定:アクセス制御のルールを定義する機能
- ロールの設定:一時的な権限の付与を可能にする機能
まず、ユーザーの本人確認である認証と、適切な権限付与である認可を自動化・一元管理することが可能です。この一元管理により、従来のアカウント管理で発生しがちだった権限設定の不整合を防ぎます。さらに、多要素認証の強制やパスワードポリシーの適用を徹底できるため、不正アクセスに対するセキュリティを大幅に向上させることができます。
また、IAMのグループ機能を活用すれば、職務や部署に応じたユーザーの一括管理が可能になり、権限管理の効率化と一貫性の確保につながります。
さらにIAMポリシーでは、どのユーザーがどのリソースに対し、どんな操作を許可または拒否するかといったアクセス制御ルールを細かく定義できます。
そしてIAMロールは、特定の操作を許可するアクセス権限の集合で、ユーザーやサービスが必要に応じて一時的に権限を取得する仕組みです。例えば、主要なクラウドサービスであるAWS(Amazon Web Services)(※)のIAMでは、「IAMユーザー」と「IAMロール」という仕組みで権限を管理します。IAMユーザーが個人に紐づく認証情報を持つのに対し、IAMロールは特定の操作を許可するアクセス権限をまとめたものです。ユーザーやサービスが必要に応じてこのロールを利用することで、安全かつ柔軟な権限管理が可能になります。
※AWS(Amazon Web Services)は、米国Amazon.com, Inc.およびその関連会社の登録商標です。
04 IAM導入のメリット

IAMを導入することで得られる主なメリットは以下の通りです。
- 不正ユーザーによるアクセスの防止
- 許可されていないサービスとの不正な連携の防止
- ユーザー管理の効率化
- 操作履歴の確認・追跡が容易になる
- コンプライアンスの強化
IAMを活用することで「最小権限の原則(業務に必要な最小限の権限のみを付与する考え方)」を実現できます。多要素認証の導入と組み合わせることで、ユーザーに対して過剰な権限を与えることなく、なりすましや不正アクセスのリスクを最小化できます。
また、ポリシー機能により悪意のあるサービスや承認されていない外部サービスとの連携を防ぎ、情報漏洩のリスクを低減します。
さらに、人事システムとの連携により、入社・退職・異動に応じたアカウントの作成・削除・権限変更を自動化することが可能です。これにより、管理者の作業を効率化できます。
加えて監査ログを活用することで、セキュリティインシデントの早期発見と迅速な対応が可能になります。操作履歴を詳細に記録・追跡することで、「誰が」「いつ」「どこから」操作したかを一元的に把握できます。
厳密なアクセス制御と監査証跡の保存により、各種規制や法令の要求事項を満たしコンプライアンスを強化することができます。
05 IAM導入の課題と対策

IAMを導入する際には、以下のような課題に注意が必要です。
- 設定ミスにより不適切なアクセス権限が付与される可能性がある
- 使用されていない古いアクセス権限が放置されるリスクがある
IAMは、設定が複雑になりやすく、管理者の理解不足により誤った権限設定が行われる可能性があります。
また、退職した従業員のアカウントや、プロジェクト終了後に不要となった権限が適切に削除されないまま残っていると、攻撃者に悪用されるリスクが高まります。
これらの課題に対しては、定期的な権限監査プロセスの確立や、人事システムとの連携によるアカウントや権限の自動削除機能の活用が有効です。
06 IAMの運用課題をIGAで補完する

IGA(Identity Governance and Administration:アイデンティティおよびガバナンス管理)は、アイデンティティ管理における「統合的なガバナンス(統制)」と「管理プロセスの自動化」を実現する仕組みであり、IAMの運用面での課題を解決に導きます。
組織の拡大やコンプライアンスの厳格化に伴い、アイデンティティ全体を業務プロセスと連携させて管理することが重要です。
IGAでは、新入社員の入社時に人事システムと連携して自動的にアカウントを作成し、職務に応じた適切な権限を付与します。また、定期的なアクセス権限のレビューを自動化し、承認者に対して権限の継続可否を確認するプロセスも構築できます。
さらに、IGAの一部のサービスではAIを活用して異常なアクセスパターンを検知する機能も搭載されています。これにより、従来の手動管理では見逃しがちだったリスクを早期に発見し、不審なアクセスの自動ブロックや管理者への即時通知といった、迅速で高度な対応が可能になります。
07 まとめ

本記事では、ゼロトラストセキュリティの中核をなすIAMについて、その基本概念から実践的な活用方法までを解説しました。
IAMは、「誰が・どのリソースに・どのような操作ができるか」を管理する仕組みです。ユーザーの認証と認可を適切に行うことで、情報漏洩などのリスクを大幅に軽減し、セキュリティと業務効率の両立を実現します。
リモートワークが普及した現代では、従来の「社内は安全」という境界型セキュリティは通用しなくなりつつあり、「常に検証する」ゼロトラストの考え方を実践することが、企業の重要な情報を守るための第一歩となります。
ただし、IAMやゼロトラストの導入・運用には専門的な知識が求められ、自社の環境に合わせた適切な設計と継続的な運用が重要です。導入や運用に不安を感じる場合は、外部の専門家による支援を仰ぐことも有効な選択肢となります。
NTTドコモソリューションズでは、ゼロトラスト型セキュリティの導入・運用に関する豊富な実績を活かし、あらかじめ設計されたテンプレート化されたサービスを提供しています。複雑な初期設計の負担を軽減しながら、短期間での導入を可能にしています。
また、セキュリティオペレーションセンター(SOC)による監視・運用支援や、Microsoft 365(※)との連携による不正アクセス対策など、実用的な機能も備えており、日々の運用負荷を軽減しながら、セキュリティレベルの向上を図ることが可能です。
セキュリティ課題の解決に向けて、ゼロトラストの導入を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
※Microsoft 365は米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国々における登録商標または商標です。