
働き方改革の実現に向けて最も効果的なアプローチと考えられている「テレワーク」。
すでに多くの企業がテレワークの導入により、業務効率向上や残業時間の削減に成功しています。
厚生労働省、総務省といった官公庁やテレワーク協会などがテレワークに関するガイドラインをとりまとめています。よりよいテレワークの導入・活用するためのヒント・手段としてのガイドラインをご紹介します。
テレワークの歴史とICT技術

テレワークの歴史は、1970年のアメリカまでさかのぼると言われています。当時のロサンジェルスは自動車の交通量増加に伴い大気汚染が深刻となり、その対策の一つとしてテレワークという働き方・概念が誕生したとされています。
テレワークとリモートワークという言葉があります。「テレワークとは、ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方です。」と日本では総務省が定義付けています。一方、リモートワークには明確な定義はないようです。
アメリカではテレワークにもリモートワークにも定義が存在しています。
会社のオフィスで働くことをメインとしながら、オフィス以外の場所でも働く場合をテレワークと、テレワークと比較してオフィス以外の場所をメインとして働く場合をリモートワークというふうに定義しています。テレワークとリモートワークの定義の境界線は曖昧かもしれませんが、オフィス以外の場所で働くという共通点はありつつ、ニュアンスが異っています。十年以上前かもしれませんが、べんとう(bento)という言葉がフランスの辞書に掲載された、と報じられたことがあります。言葉は生き物であり、移り行くものです。
「ビジネス書大賞2017」で大賞を受賞した、世界的ベストセラー『サピエンス全史』の著者、ユヴァル・ノア・ハラリの著書「Money」という洋書を引用します。
A society of wolves would be extremely foolish to believe that the supply of sheep would keep on growing indefinitely. The human economy has nevertheless managed to keep on growing throughout the modern era, thanks only to the fact that scientists come up with another discovery or gadget every few years?such as the continent of America, the internal combustion engine, or genetically engineered sheep.
ーーオオカミの社会で羊の供給が無限大に増え続けると信じるのは、とてつもなく馬鹿げたことでしょう。それにもかかわらず、数年ごとに科学者が、アメリカ大陸や内燃機関、遺伝子組み換え羊などを発見や発明をしてきたおかげで、人類の経済は現代になっても成長し続けていますーー。
ユヴァル・ノア・ハラリの著書「Money」
資本主義と科学には切り離せない蜜月関係があり、技術刷新・革新なくして資本主義は成り立たないと綴られていました。当然ながら、現代と比較して1970年代の技術は拙いものでした。インターネットどころかパソコンも一般家庭には普及していませんでした。テレワークを実現させるための技術が未成熟だったため、テレワークが浸透することはなかったのです。パソコン、インターネット、リモート・デスクトップ、クラウド・コンピューティング、シンクライアント・仮想デスクトップなどの技術刷新・革新とともに、テレワークを適用できる業務・領域が拡大していきました。相応の業務に対し実用に耐えうるテレワーク技術が成熟していったところに、新型コロナウイルス感染症拡大への対策として、テレワークの普及が加速したのです。
テレワークの今後の展望

テレワークの経験者は、テレワークについてどう思っているのでしょうか。
テレワークに関するアンケート調査では最大規模を誇る、国土交通省による「令和2年度テレワーク人口実態調査(※1)」があります(サンプル数/調査規模4万人、2020年11~12月に実施)。
※1 国土交通省「テレワーク人口実態調査」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001391381.pdf
その調査結果によると、テレワークについて雇用型テレワーカーのテレワークに対する満足度は、「大変満足・やや満足」が64.3%、「どちらでもない」が22.9%、「やや不満・大変不満」が12.8%でした。満足度の高さがうかがえます。今後のテレワークの実施意向に関しても、「実施したい」の81.5%が「実施したくない」の18.5%を大きく引き放しています。新型コロナウイルスの感染予防対策として導入している企業が大多数ですが、目的・背景はともあれ、テレワークの経験者はテレワークに対して好意的な傾向があります。
新型コロナウイルス感染症の流行が収束した未来では、どのような働き方をしているのでしょうか。新型コロナウイルス感染症対策がテレワークの導入目的・背景の大多数を占めていますが、いかなる目的・背景であれ、テレワーク自体に、BCP(事業継続計画)対策、多様な働き方の推進と生産性の向上、女性の活躍やワーク・ライフ・バランスを奨励する効果があります。また、テレワークに対する従業員の満足度も高いことに鑑みると、新型コロナウイルス感染症の流行が収束した後も、コロナ流行前の状態、つまり元のさやに収まることはないと予想されます。
「令和2年度テレワーク人口実態調査」の調査結果によると、「仕事内容がテレワークになじむか」に対する雇用型非テレワーカーの回答は、「なじまない」は62.4%で「なじまないとは思わない」が37.6%でした。2倍近くの開きがあります。雇用型非テレワーカーの自己申告・アンケート結果が的を射たものだと仮定すると、雇用型就業者の77%を占める非テレワーカーの業務のうち、62.4%の業務がテレワークできない、もしくは、適さない結果となります。これを言い換えるならば、全雇用型就業者の約半数(0.77×0.624≒48%)の業務が不適切だと言えるかもしれません。逆に言うとテレワークに適した業務に関するその導入率は、半数近く(0.23/(1-0.48)≒約44%)にのぼると試算できるかもしれません。コップに1/2近くの水があるとして、それを多いと取るか少ないと取るかは、その時の状況(喉が渇いている/乾いていないなど)や性格(水が好き/好きではないなど)によって変わります。ワクチン接種の普及率向上とともに、新型コロナウイルス感染症の流行も収束していくかもしれませんが、テレワーク導入率はまだ半分と捉え、導入率のさらなる向上を目指すのも一つの方策でしょう。
テレワークを実施していない理由として、なじまない仕事内容を見ていくと、「直接対面が必要」が31.6%、「現場作業が必要」が23.4%、「セキュリティ」が2.7%でした。
2021年4月7日~4月13日の間、アスクルが全国4070事業所で実施した「テレワークの活用における実施率や導入に伴う課題(※2)」に関する調査では、業種別のテレワーク導入率を調査しています。
※2 アスクル株式会社「テレワークの活用における実施率や導入に伴う課題」
https://release.nikkei.co.jp/attach/610244/02_202105141033.pdf
その調査によると、業種別で最も導入率が高いのは、「IT・情報・通信サービス」は83.2%で、「放送・報道・広告・調 査」が75.8%でした。逆に最も導入率が低いのは、「医療関連・薬局」が8%、「介護・福祉」が11.6%、「農林・水産業」が13%、「飲食業」が15.4%と続きました。「IT・情報・通信サービス」が「医療関連・薬局」の導入率の10倍以上あり、業種によって大きく開きがあることがわかります。医療・薬局、介護・福祉、農林・水産業、飲食業に共通する要素は、テレワークになじまない仕事内容だということもあるでしょう。いずれも現場で直接対面して対応する必要が前提であるため、テレワーク導入率が低いのもうなずけます。
先ほどテレワークに不適切な業務を行っている雇用型従業員者の割合は、約半数(0.77×0.624≒48%)と見積もりました。将来を見据えると、例えばロボティクス技術を駆使して人の動作を補助したり、オートメーション技術を利用して自律的に機械が畑を耕したり、リモート技術を通じて遠隔操作で手術を執刀したりするなど、これから起こるであろう技術刷新・革新を活用することで、今は現場・対面対応が必要な業務・領域だとしても、テレワークが可能な業務・領域は広がっていくことが予想されます。
テレワークの課題とガイドライン

テレワークを実現するための技術を整備・推進する役割を担う責任者は、テレワークに関してどのように考えているのでしょうか。2021年1月15日~2月11日の期間で、レノボ・ジャパン合同会社が、企業で働くIT設備購入の決裁権を持つ321名を対象に、アンケート調査(※3)を実施しています。
※3 レノボ・ジャパン合同会社「新型コロナウィルスの感染拡大の影響」に関する調査
https://www.lenovo.com/jp/ja/news/article/2021-4-21
その調査結果によると、企業の従業員規模を問わず、解答企業の80%以上が、新型コロナウイルスの感染症拡大が収束した後でも、テレワーク・在宅勤務、もしくは、在宅勤務とオフィス出社を組み合わせた『ハイブリット』勤務体制に移行すると想定しています。一方、テレワークの必要性を認識しつつも、4社に1社は未だにテレワーク対応などIT部門のニューノーマルな労働環境への対応がうまくいっておらず、未解決課題となっています。そこで、未解決課題に取り組むためのヒント・手段として、厚生労働省、総務省、テレワーク協会などが策定・公表しているテレワークに関するガイドラインを活用することをお勧めします。
ガイドラインの種類と概要

ここでは、厚生労働省、総務省、テレワーク協会のガイドラインをご紹介します。
【厚生労働省】テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
このガイドラインは、使用者が適切に労務管理を行い、労働者が安心して働くことができる良質なテレワークを推進するため、テレワークの導入と実施に当たり、労務管理を中心に、労使双方にとって留意すべき点、望ましい取り組み等を明らかにしたものです。このガイドラインを参考に、労使が十分に話し合いを行い、良質なテレワークを導入し、定着させていくことが期待されます。
上記とは別に要約版として、
「ガイドライン概要」
「(事業主、企業の労務担当者の方へ)テレワークガイドライン」
「(労働者の方へ)テレワークガイドライン」
の3つを策定・公表しています。
チェックリストとして、
「(別紙1)テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】」
「(別紙2)自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト【労働者用】」
の2つを策定・公表しています。
導入から実施の推進まで網羅的にまとめられたガイドラインです。よりよいテレワークの導入・活用にあたって、検討・適用漏れがないか、別紙のチェックリストと併せて確認することをお勧めします。
詳しくは引用元の下記のサイトをご参照ください。
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
【テレワーク協会】テレワーク導入ガイドライン
テレワーク導入に関して、総務省、厚生労働省やテレワーク協会が独自に策定・公表しているガイドラインを下記の4つの分野別に取りまとめています。
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総合ガイド
働き方改革のためのテレワーク導入モデル(総務省 2018年)
テレワークではじめる働き方改革(厚生労働省 2016年) -
労務管理ガイド
テレワークモデル就業規則~作成の手引~(厚生労働省)
テレワーク導入のための労務管理等Q&A集(厚生労働省)
自営型テレワークの適切な実施のためのガイドライン(厚生労働省)
情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(厚生労働省) -
ICTガイド(ツールやテレワーク関連製品)
テレワーク関連ツール(日本テレワーク協会)
中堅・中小企業におすすめのテレワーク製品一覧(日本テレワーク協会) -
情報セキュリティガイド
テレワークセキュリティガイドライン (総務省)
該当する分野に関しては、引用元の下記のURLからご確認ください。
一般社団法人「日本テレワーク協会」
テレワーク導入ガイドライン
https://japan-telework.or.jp/suguwakaru/guide/
まとめ

テレワーク導入に関して4社に1社が問題や課題を抱えています。そうならないためにも、また、課題があったとしてそれを解決するためにも、テレワークに関するガイドラインのご活用をお勧めします。