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海野:IT業界でいうオープン化ということでしょうか。このオープン化が普及を牽引しているようですが、伝統芸能の能の世界では普及に向けた開拓はいかがでしょうか?
観世:渋谷区にある国立能楽堂で中高生向けの公演を定期的に行っていますし、幼稚園児や小学生向けに上演することもあります。外国人向けの公演は、テレビの国際ニュースにも取り上げられました。また、学校の体育館や講堂を巡回公演することもあります。私たちやそれ以上の世代では欧米の文化への憧れが強かったように思いますが、その反動なのか、今の子どもたちは、和の芸能や伝統文化に素直に興味を示すのです。そのような世代が出現するとは、かつては想像すらできないことでした。やはり子ども向けの公演というのは、これからも続けていかなくてはならない。そんな思いをさらに強くしています。

伝統芸能の世界にもIT技術を

観世 喜正 氏

観世 喜正 氏
1970年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。父・三世観世喜之に師事し、幼少より能楽師としての研さんを積む。東京を中心に、全国の公演、海外公演に多数出演。普及活動にも力を注いでおり、謡曲のCD化、能公演のDVD作成など、能楽教材のソフト化にも積極的に取り組んでいる。著書に『演目別に見る能装束』(淡交社)。

「今後は能の世界にもIT技術の導入を進めていきたいですね」

海野:能の伝統はどのように作られ、続いてきたのですか。
観世:能は14世紀の中ごろ、観世の家の初代、2代となる観阿弥、世阿弥が大成したものです。それ以前も神社仏閣での祭礼儀式に演じられていましたが、台本を用意し演出を加えて、演劇のようなスタイルに昇華させたのは、観阿弥、世阿弥の功績です。江戸時代には武士のたしなみの一つとされ、公式行事の際に上演されました。あの赤穂浪士で有名な、松の廊下の刃傷事件も能を上演している最中に起こったものです。明治になって一度は、新しい時代に能は不要と見なされ廃れかけたのですが、岩倉具視が「外国にはオペラなどの接待があるが、日本にはない。いや、能があるではないか」と復権に取り組みました。
海野:観世さまから見て、能の魅力はどのようなところに感じられますか。
観世:能は演劇ですので、当然、誰でも観ることができます。そして能楽堂だけではなく、神社、お寺のような場所でも上演されます。また、本物のかがり火の明かりに照らされて演じられる薪能のようなスタイルもございます。このように能を通して、さまざまな形の、すてきな和の空間を満喫できます。
つまり、観て聴いて楽しむことができるわけです。そして、習うことができます。これは意外に思う人が多いのですが、私のような能楽師の家系に生まれなくても、能は誰でも習うことができるのです。ちなみに、今習っていらっしゃる方の中では、女性が圧倒的に多くなっています。習ったうえで能を観ると、より深く理解でき、楽しみも増すはずです。

海野 忍

「多くの人が能をより深く楽しんでいただけるよう、技術面でご支援いたします」

海野:観世さまは、たくさんの人に能をより楽しんでもらうため、新しい技術導入にも取り組んでいらっしゃいます。
観世:この矢来能楽堂が作られたのは、昭和5年(1930年)と聞いております。そして昭和27年(1952年)の祖父の時代、今の建物に立て替えたときに、桟敷席ではなく、当時としては先進的といえる椅子席を導入しました。
電気による照明や、椅子に座っての観劇という形を導入したことですら、能の長い歴史のなかでは技術革新といえます。今後はタブレット端末やスマートフォンの活用法、さらには字幕表示機の可能性などについても検討していきたいと思っています。
海野:字幕表示機といえば、弊社ではタブレット端末向けに「多言語字幕解説システム」を開発しています。昨年9月にはここ矢来能楽堂でサービスのトライアルも実施させていただきました。お使いいただいた感想はいかがでしょうか。
観世:私も歌舞伎を見ることがあります。私は歌舞伎のセリフをかなり聞き取れるほうですが、それでもときどき何を言っているのか、この役者が誰なのかわからないこともあります。そんなときタブレットを見れば、役者の名前が表示されるというように、今ちょっと知りたい情報を補ってもらえるようになればいいですね。
だからといって一から百まですべての情報はいりません。もちろんすべての情報はコンテンツとして必要でしょうが、見る方からすれば、すべて説明されては逆にうっとうしいと思うかもしれません。見る側で情報を取捨選択できるといいですね。
海野:それは私ども技術屋にとって、大変いいヒントです。私たちは「なるべくフルセットをお使いいただこう」と思ってしまうのですが、なかには、「本当にほしい機能がひとつだけあれば十分」という方もいらっしゃいます。取捨選択できることが大事ということですね。
観世:そうですね。そういう使い方ができると、より理解が増すのではないでしょうか。
海野:ありがとうございます。この機会にぜひこれからも、ご指導をよろしくお願いいたします。

[対談日:2016年7月14日]

矢来能楽堂

CORPORATE PROFILE

名称:矢来能楽堂
所在地:東京都新宿区矢来町60
設立:昭和27年(再建)

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