ICT機器の進化が加速しています。これまで主流だったパソコンやスマートフォンから、身に着ける「ウエアラブルデバイス」へ。その延長線上に登場したのが体内に埋め込む「インプランタブルデバイス」です。インプランタブルデバイスは、どのような未来をもたらすのでしょうか。そして、私たちの暮らしをどのように変え、ビジネスをどう革新していくのでしょうか。
ICT機器の小型化とネットワーク化が、体に身に着けるウエアラブルデバイスを生んだ
体内に通信端末を埋め込んで、手をかざすだけでオフィスのドアを開閉したり、オフィス内に設置された自動販売機で飲み物を買う――。近未来の世界を描いた映画のワンシーンのようですが、ベルギーのある企業ではすでにこうした取り組みが進められています。従業員の手に米粒のほどのマイクロチップを埋め込み、ICカードと同様の機能を持たせてドアの開閉や出退勤の管理などに活用しているのです。
このように体内に埋め込むタイプのチップや機器を「インプランタブル(埋め込み型)」デバイスと呼びます。そして具体的な実用化を視野に入れた活用がすでに始まっています。その背景の1つが、すでに普及しつつある、時計型やメガネ型などの身に着けるタイプの「ウエアラブル」デバイスの進化と普及です。
インプランタブルデバイスの話に入る前に、ウエアラブルデバイスの現状について整理しておきましょう。従来、身近なICT機器といえばパソコンでした。デスクトップパソコンから、携帯できるノートパソコン、スマートフォンやタブレットへと、小型化は進みました。同時にインターネットとの接続環境も整備されました。その結果、オフィス外からインターネットや社内ネットワークに接続して仕事をするモバイルワークのスタイルが確立しました。小型化とネットワーク化の進化のなかで、ウエアラブルデバイスの活用も始まっています。
図1:インプランタブルデバイスへの流れ
多様化が進むウエアラブルデバイス。衣服やウィッグも?
ウエアラブルと一口にいっても、その形態は多種多様。よく知られているのは腕に装着するスマートウオッチや活動量計などでしょう。スマートウオッチは、スマートフォンと連動してメッセージを受信したり、スケジュールを通知する機能があるほか、健康管理にも利用できます。
ウエアラブルデバイスが従来のモバイルデバイスと大きく異なる点の1つは、身に付けることで、身体のデータである「バイタルデータ」を日々記録できることです。例えば、活動量計の機能では、歩行や階段の昇降などの活動や消費カロリーを測定したり、睡眠時間の記録や心拍数の計測なども可能。身に付けた人の健康状態を可視化でき、しかもそれらのデータを多数集計し、安全管理やマーケティングなどさまざまな用途に活用できます。
またメガネタイプの「スマートグラス」は、企業向けに実用化が進んでいます。グローバルに展開するロジスティクス企業では、倉庫作業でスマートグラスを活用する実験を実施しました。グラスに作業マニュアルや探している荷物の位置情報を表示し、作業員はその指示通りに動くことで、効率的に荷物をピックアップできます。グラスに内蔵されているカメラをスキャナーとして利用すれば、伝票への記入も不要となり、作業効率が上がります。
さらに近年開発が進んでいるのが、衣服タイプの「スマートウエア」です。とある繊維メーカーでは、伸縮性のある導電素材を使った生体情報計測ウエアを製品化。着るだけで心拍数や心拍周期などの生体情報がわかり、スポーツや医療、介護分野での活用が期待されています。
そのほか、通信機能を持ち、テレビやエアコンをジェスチャーで操作できる指輪型ウエアラブルデバイスや、かつらの中にカメラやGPS、センサーなどを内蔵した「スマートウィッグ」も登場。身に着けられるものなら何でも情報端末化できる時代の到来といえるかもしれません。
このように、「所有する」「携帯する」から「身に着ける」へ変化しつつある情報通信端末。その延長線上にあるのが、体内に埋め込むタイプの「インプランタブルデバイス」だといえるでしょう。