ロゴ:NTTドコモソリューションズ(トップページへ)

TOPソリューション・プロダクトコラムゼロトラスト導入はどこから始めるべきか ─段階的に進める手順と優先順位を解説─
2026.03.23

ゼロトラスト導入はどこから始めるべきか ─段階的に進める手順と優先順位を解説─

ゼロトラスト導入はどこから始めるべきか ─段階的に進める手順と優先順位を解説─

前回のコラムでは、ゼロトラストサービスを比較する際に整理しておきたい視点について解説しました。比較の軸が見えてくると、多くの企業で次に生まれるのは、「では、自社はどこから着手すべきなのか」という新たな悩みです。

情報処理推進機構(IPA)の調査によれば、基本的なセキュリティ対策としてOSやウイルス対策を最新化している中小企業は約7割に達する一方、緊急時対応の準備やルール整備まで進んでいる企業は約4割にとどまり、対策の成熟度には大きな差があることが示されています¹。

また、警察庁の統計では、2024年上半期に報告されたランサムウェア被害のうち約6割超が中小企業で発生しており、企業規模に関わらず侵害リスクが高まっている状況が明らかになっています。

本コラムでは、既存の境界型セキュリティ環境を前提に、低コスト・低リスクで進めるための現実的な段階的アプローチを整理します。

ゼロトラスト導入を「理想論」ではなく「実行可能な計画」として捉えるための視点を、順を追って見ていきましょう。

01 ゼロトラスト導入は「準備」と「順序」で成否が分かれる

ゼロトラストは単一の製品導入で完成するものではなく、ID、端末、アクセス制御、データ保護といった複数要素を段階的に整備していく設計思想です。十分な準備がないまま一部機能だけを導入すると、期待した効果が得られないだけでなく、運用負荷やコストが増大する可能性があります。

既存のVPNやActive Directory、オンプレミス業務システムを一度に置き換えることは、業務停止リスクや予算制約の観点からも現実的ではありません。そのため、段階的な移行こそが最も実行可能性の高いアプローチとなります。

02 ゼロトラスト導入前に把握すべき「自社の現在地」

段階的に進めるためには、最初に自社の状態を客観的に把握することが不可欠です。

ゼロトラスト導入前に自社のID・端末・アクセス状況の現在地を可視化して把握するイメージ図

ID・端末・アクセスの可視化状況

国内の認証基盤サービス導入企業に関する調査では、多要素認証(MFA)がすべての利用者に一貫して適用されているとは限らず、運用面まで含めた統制には課題が残る状況が示されています²。

こうした実態を踏まえると、ゼロトラスト導入の出発点は新たな仕組みを追加するのではなく、ID・認証基盤そのものの可視化と統制をどこまで徹底できているかにあるといえます。

守るべき業務・データの優先順位

取引先から情報セキュリティ対策を求められた中小企業のうち、体制整備を行った企業の約6割が取引拡大につながったとの調査もあり³、対策の優先順位付けはリスク管理だけでなく事業機会にも影響します。

運用体制は継続可能か

ゼロトラストは、導入して終わる仕組みではありません。ポリシーの見直しや例外対応、ログ確認など、継続的な運用によって成熟します。
そのため、情報システム部が少人数の場合でも運用を続けられる体制整備が前提となります。

03 ゼロトラストを段階導入するための現実的な手順

ゼロトラストをID強化から運用最適化まで段階的に導入するステップを示したフロー図

STEP1|IDの強化(最小コストで最大効果)

最初に取り組むべきは、IDに関する対策です。
多要素認証(MFA)の導入、不要アカウントの削除、管理者権限の見直しなどは、ネットワーク構成を変更することなく実施できるため、侵害リスク低減効果が高い初期対策とされています。

IPAの「情報セキュリティ白書」では、国内のサイバーインシデント分析として侵入初期段階における不正アクセスが主要な攻撃手口のひとつとして挙げられており、認証情報やアクセス制御の不備が侵入の足掛かりとなり得ることが示されています⁴。

このことからも、ID統制の強化はゼロトラスト導入における最も優先度の高い対策領域の一つと位置付けられます。

STEP2|端末状態の可視化

次に、アクセス元となる端末の状態を把握します。
パッチ適用状況、セキュリティ対策ソフトの導入状況、管理対象外端末の存在などを可視化することで、「どのアクセスを安全と見なせるか」という基準が明確になります。

STEP3|アクセス制御の細分化(VPN依存の縮小)

IDと端末の状態を踏まえ、アプリ単位のアクセス制御やZTNA(Zero Trust Network Access:利用者や端末の状態を確認したうえで、必要なアプリケーションにのみ接続を許可する方式)により、従来のVPN中心の境界防御への依存を段階的に低減します。

STEP4|可視化・ログ統合

複数の環境で発生するアクセスログを統合することで、インシデント発生時の初動対応や運用改善の判断がしやすくなります。可視化は監視だけでなく、説明責任の確立にも役立ちます。

STEP5|運用の最適化と継続的改善

最終的には、日々の運用を継続可能な体制に組み込むことが重要です。ポリシー整理、例外対応の標準化、運用支援の活用を通じて、ゼロトラストは実効性を持つ仕組みとして成熟していきます。

04 順序を誤るとコストとリスクはむしろ増える

ゼロトラスト導入が停滞する要因の多くは、対策の順序にあります。
ID統制が不十分なままネットワーク対策を先行したり、個別ツール導入に運用体制が伴わなかったりすると、期待した効果が得られないまま運用負荷だけが増大する可能性があります。

こうした状況に共通するのは、リスク低減効果の高い領域から段階的に整備する設計が不足している点です。

段階的アプローチは遠回りではなく、既存環境を維持しながら確実にリスクを下げていくための最も現実的な近道といえるでしょう

ゼロトラスト導入の誤った進め方と正しい進め方の違いを分岐で示した比較イメージ

05 次に問われるのは「運用が続くか」という現実

段階的な進め方であれば、既存環境を維持しつつでもゼロトラスト導入は可能です。しかし、方針と設計が整理できても、次の課題として問われるのが「その運用が継続できるか」という現実です。

少人数体制でも成立するのか。
インシデントに対応できるのか。
日々の業務と両立できるのか。

次回は、こうした現実的な視点から、
持続可能なゼロトラスト運用の考え方を整理していきます。

脚注(出典)

  1. IPA「中小企業における情報セキュリティ対策実態調査(2024)」
  2. 警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(令和6年)」
  3. Okta Japan株式会社「国内の認証基盤サービス導入企業におけるMFA適用状況に関する調査(2024年)第3回」
  4. IPA「情報セキュリティ白書2025」