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東京は世界でも珍しい入り組んだ坂の街

 世界中のほとんどの都市には、ダウンタウンとヒルサイドがある。海や川に近い場所は交通の便がいいので商工業が栄えていく。そしてその上側に住宅街が広がる。
 「それが街の基本的な構造。でも東京は、台地が5本の指のように張り出して低地と複雑に入り組んでいるんです。こういう都市は珍しい」と山田さんは言う。山田さんは、台地と低地が交差するJR山手線の内側、特に上野から田端にかけての風景が好きなのだそうだ。

 「東京は坂の街。上野は世界でも類を見ないほど多くの文化施設が密集している場所ですが、張り出した台地の先端にある坂の密集地でもあります」。

 例えば、山田さんが勤めていた講談社がある文京区音羽から上野まで最短距離で行こうとすると、坂の上り下りが3.5回あるという。
 「町名が同じでも、坂の上と下では街の表情がまるで違う。それが東京の魅力でもあるんですよ」。

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80年代のバブル景気時期には街の個性が作られた

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環八通り沿いに健在のM2ビル。現在は東京メモリードホール
(写真:株式会社メモリード東京)

 80年代に入ってバブル景気時期に突入すると、街には次々と個性的な建築物が建ち始めた。

 「それまでは合理的、機能主義的な建物が主流でしたが、バブル時期に入ると、さまざまな時代の装飾様式がごちゃまぜに取り入れられたポストモダン建築が流行しました。建築家の隈研吾さんや、プロデューサーのシー・ユー・チェンさん、イギリス人建築家のナイジェル・コーツさんなどが、建築資材にもデザインにもお金をかけて、街のシンボルになる建物を次々と誕生させていました」。多くは取り壊されてしまったが、西麻布のザ・ウォールや環八通りに建つM2ビル(現・東京メモリードホール)などは健在で、今も異彩を放っている。

 これらの特徴のある建物のおかげでひとつ一つの街の個性がはっきりしていたバブル時期。個性的な店や場所が次々とでき、山田さんの編集者時代には話題に事欠かない時期だったようだ。山田さんは、「今は、バブルの前よりさらに合理的、機能主義的でミニマルな建築が増えているような気がします。シンプルで使いやすくおしゃれではありますが、どうしても同じ印象に見えてしまう。ビルも高層化するばかりで特徴がなくなり、結果として街の個性が失われてきているのではないでしょうか」と危惧している。

 希望が持てるのは、都内の商店街。地方の商店街は問題を抱えているという話をよく耳にするが、都内の商店街はどこも人の往来が多くにぎわっている場所も多い。「人の往来がある限り、未来の東京でも商店街という形態は残っていくと思います」。

若者は地方へ、コンパクト化した東京はセカンドライフを送る場所に

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 バブル時期に東京は地価が高騰し、人も開発も地方へ分散されていた。分かりやすいのは、大学の移転だ。都心にあった大学は広大な敷地を求めて地方へと移った。しかし、今、若者人口の減少とともに人材の獲得競争が激しくなり、都心回帰が起きている。2020年の東京五輪の後は、さらに都心に集中し、大学だけではなく、住宅の都心部の供給も増加していくだろう。

 「東京はコンパクト化され、縮み志向が強くなっていくのではないでしょうか。コンパクト化された街は、生活に必要なものやことが近くなるので高齢者にとってもありがたい。そうなると、街には高齢者向けの施設が増加していく」。すでに文京区では、子どもの人口減少で閉校となった中学校跡地をはじめ、次々と高齢者のための住居や施設が建設されているのだそうだ。

 そこで山田さんが思うのは、「若者はむしろ東京を出て地方を活性化したほうが暮らしやすいのでは」ということ。住宅にかかる費用が高い東京では、若者や子育て世代が暮らしていくのは何かと大変になる。子育ても地方でのびのびと行い、体がきつくなってきたら、コンパクト化された都心に戻ってくるのが理想。

 「すでに仕事はどこでもできるように環境は整ってきている。5Gが普及すれば、東京にいなくても仕事がスムーズにはかどるでしょう」。5Gなどの新たな技術への期待度は高いと山田さんは言う。近い将来、地方で自分の時間軸で仕事をし、おじいちゃんおばあちゃんに会いに東京へ出かけるという時代が訪れるのかもしれない。

 「課題として残るのは、ビジネスのグローバル化やインバウンド促進で海外から東京に移住してくる人々に対応する諸制度の整備です。今のあやふやな状態では双方が幸せにならない。ここをきちんと対応すれば、もしかしたら、異文化が融合した面白い文化が生まれ、街に新たな個性が根づくかもしれません」。そうなると、未来の東京はもっと面白くなりそうだ。

プロフィール

山田五郎(やまだ・ごろう)
編集者/評論家。1958年、東京生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業。大学在学時に、オーストリア・ザルツブルグ大学に1年間留学し、西洋美術史を学ぶ。卒業後、講談社に入社。『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長を経てフリーに。西洋美術、街づくり、時計、ファッションなど、幅広い分野で講演・執筆活動を続けている。「出没! アド街ック天国」(テレビ東京)、「ぶらぶら美術博物館』(BS日テレ)など、テレビ、ラジオへの出演多数。『知識ゼロからの西洋絵画入門』(幻冬舎)『へんな西洋絵画』(講談社)など著書も多数ある。

2019/8/22

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