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偶然のコミュニケーションが減ることによるサイロ化は、
違う発想で防ぐのが理想

写真:山下正太郎さん

―ハイコンテクストからローコンテクストになるとオフィスの役割はどのように変わるのでしょうか。

山下:ローコンテクストの仕事は個々で行い、オフィスには週に何日、または月に何日と決めて、その日だけデジタルではやりづらいハイコンテクストなことを行おうと。オフィスの機能が限定的になってくると思います。

―今までオフィスに集まることで生まれていた出会いなどはどのようになるのでしょうか。

山下:例えば、喫煙所でのコミュニケーションのように、予定していない、偶然に発生するコミュニケーションは、アイデアの発想や企業カルチャーを理解するためにとても大切な要素でしたが、オフィスへ通う頻度が落ちれば、当然生まれにくくなります。つまり、チーム外、ほかの部署とのコミュニケーションが減ってしまい、コミュニケーションネットワークがサイロ化していくんですね。組織で仕事をするメリットは、様々なチームのノウハウやアイデアを知れるということでもあるわけで、新しい偶然のコミュニケーションの場をどうデザインしていくかは重要なテーマです。

―コミュニケーションのサイロ化を防ぐために、デジタルに期待するのはどういうところでしょうか。

山下:いろいろな制約を超えていくところがデジタルの良さだと思います。特に、ハイコンテクストな出会いの場やコミュニケーションの場所をデジタルがどうやって創り出すかに注目しています。クラブハウス(招待制の音声配信SNS)も新たなコミュニケーションの場だったと思いますし、昨今話題のメタバース(インターネット上の仮想空間)も今後可能性が模索されるでしょう。

―リアルと同じものを作る、補完する延長線上ではなくて、違う観点から作られたものがあると面白いですね。

山下:そう思います。例えば、オフィスの偶然の出会いを考えると、多くてもビル内の1万人程度の規模ですが、現在、メタバース上でライブを行うと、1千万人以上が集まるわけです。スケールがまったく違います。1千万人が同じ空間に集まると何が起こるかは、まだ人類が体験していないことですし、今後そのポテンシャルが引き出されていくでしょう。

―デジタルでいろいろなツールが誕生することに期待したいですね。でも、苦手意識がある人はおいてきぼりになってしまう可能性はないでしょうか。

山下:今がいい機会だと思います。強制的に一度トライしてみることがとても大切です。一旦、コロナ禍で極端にデジタルに振ってみることで、その良さに気付いた方も多いと思います。自分のコンフォートゾーンをどうやって抜け出せるのかが重要。仕事においてはその移行を会社側がサポートすることも重要な観点です。

リモートでの仕事環境づくりは、
自分の好みと家から15分以内の環境を知ることから

―デジタルを活用したリモート・在宅ワークが定着してきた中で、オフィスの専門家として、よりよい仕事環境を作るためにはどういうことが必要だと思いますか。

山下自分の好みと特性を知ることから始めるといいと思います。仕事に集中する方法には二つのタイプがあります。まったくの無音の状態で、誰にも邪魔されず、何も目に入らないほうが集中できるタイプと、雑踏の中のほうが集中できるタイプがあります。雑踏の中で集中できる人は、家の中よりもカフェなどで仕事をする方がはかどるでしょう。
次に、家に働くための機能があるかどうかも重要です。職住分離の思想のもとで作られた都市型住宅は、周辺に機能がある分、家の中の機能やスペースがコンパクトになっています。そうなるとスペースが狭いことや、作業スペースが取れず、特にWEB会議など音が出る仕事で家族にストレスを与えることになってしまいます。

―自分の好みと自分の周りの環境を知ることから、ですね。

山下:パリが今、大きく都市改造をしています。従来のパリは東京と同じ職住分離の街で、住宅街から通勤をして都心のオフィスに通う生活でした。「15-minute city」とコンセプトを掲げて、家から15分以内で働く、学ぶ、遊ぶための場所を充足できるようなコンパクトな街を作っていこうとしています。自分の近所で、1日どう働けるかを考えた時に、機能が充実しているのかを改めて調べてみてはどうでしょうか。

職住分離の街から境目をなくす。
子どもが働く大人を知ることができるオフィス空間へ

―品川の街の開かれたオフィス空間、コクヨの「THE CAMPUS」について教えてください。

山下:従来のオフィスの定義におさまらず、多様な人が集い仕事を超えた経験を通して、新たな知が生まれる場となるよう考えたのが「THE CAMPUS」(the-campus.net)です。これから求められるオフィスは、機能よりも気持ちが満たされる場所なんだと思います。心のよりどころになる場所ですね。

―地域にも開放していますが、どのように利用してほしいですか。

山下:私の好きな言葉があります。アメリカの建築家、ルイス・カーン氏の言葉で『都市というのは、少年が朝に出かけて行き、帰ってくる時には、彼が一生かけて取り組む仕事を見つけられるような、そんな場所のことだ』。まさにこの言葉を体現したいと考えています。

品川はオフィス街と住宅地がすぐそばで隣接しているのですが、お互いの交流はなく分断されていました。せっかく近くで大人が働いているのですから、その姿を子どもや家族が見ることができると良い。また、コクヨは生活者に近い文具や家具を作っている会社ですから、なおさら地域の人の顔が見えることが理想でした。THE CAMPUSを開放することで、地域の人の生活に交わる機会ができたのは大きいと思っています。

―オフィス街の多い品川の街ではリニア開通などもあり大規模な再開発が進んでいますが、どのようなことに期待したいですか。

山下:品川はオフィス街や宿泊地としては便利なのですが、渋谷のように独自の個性があるかと言われると厳しい。リモートワークが進む世の中では、その街にわざわざ出向いてまで働く意味が問われる時代になるでしょう。今回の再開発で東京を代表する新しい職住近接のコンセプトを打ち出せると面白いなと思います。

―最後に、山下さんにとって理想とする未来の働き方はどのようなものでしょうか。

山下:自己紹介をするときに、会社名から名乗らない社会になるといいと思います。例えば、「コクヨの山下です」ではなく、「山下です。今こんなことをやっていて、コクヨにも勤めていて、こういう活動もしています」というような紹介の仕方です。自分を起点にして、活動が多面的にできていなければこういう自己紹介にならないですよね。ひとりひとりの可能性が開けている社会が理想です。

取材後記

京都工芸繊維大学の特任准教授でもある山下正太郎さん。大学で生徒に教えていると、学生たちは大切なことほどデジタルでコミュニケーションをする感覚があると話していました。価値観の違いはどの世代でもあるものですが、小さい頃からデジタルが当たり前のように生活の中にあった世代は、これからの社会を変えていく大きな器になって、その器の中であらゆる世代と地域の人が自由に飛び回れる世界になるのではないでしょうか。新しいことを取り入れるのはワクワクする反面、面倒なことも多く、手放したくなることもあります。しかし、一昔前には空想の世界の話だったことが次々と現実になっていく様はやはり見てみたいと思います。山下さんが話してくれた、いろいろなことを超越するデジタルコミュニケーションに期待したいと思いました。

プロフィール

山下正太郎さん
コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所 所長/WORKSIGHT編集長
コクヨ株式会社に入社後、戦略的ワークスタイル実現のためのコンセプトワークやチェンジマネジメントなどのコンサルティング業務に従事。手がけた複数の企業が「日経ニューオフィス賞(経済産業大臣賞、クリエイティブオフィス賞など)」を受賞。2011年にグローバルで成長する企業の働き方とオフィス環境を解いたメディア『WORKSIGHT(ワークサイト)』を創刊。同年、未来の働き方と学び方を考える研究機関「WORKSIGHT LAB.(現ワークスタイル研究所)」を立上げ、研究的観点からもワークプレイスのあり方を模索している。2016-17年英ロイヤル・カレッジ・オブ・アート ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン 客員研究員、2019年より京都工芸繊維大学 特任准教授を兼任。

2022/01/27

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