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売り上げ方針は「売るな」。離職率は7年間ゼロに

―喜ばせ業になってからの変化はいかがですか。

飯田:いろいろと考えがクリアになってきました。そこで、朝礼で「売り上げ目標をなくします」と宣言したんです。社員は困惑しますよね。前月まではノルマや売り上げ目標があったのに、いきなりすべてなくすと宣言したんです。

―皆さん戸惑いますね。

飯田:はい。さらに、お客さんに「売るな」と宣言しました。目の前にいるお客さんが何を探しているのか、どういうものが欲しいのかを理解して、喜んでもらえるように提案する、それが大切なものを大切にすることだからと。
売りつけることは一切しない、もし、飯田屋にお客さんが探しているものがなければ、あちらの店だったらあるかもしれないと他店を紹介する。それでお客さんが欲しいものに出合えたら、いいじゃないかと。みんなが納得してくれるまで何度も説明し、わかってもらいました。

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―飯田屋全体が変わるきっかけになったのですか。

飯田:どんどん変わっていきました。外食産業や小売業の離職率は一般的に50%以上と言われていますが、飯田屋は7年間離職率ゼロなんです。“売らなくていい、喜ばせることが仕事なんだ”と思うと、社員の表情も生き生きとしていきました。新しく喜ばせるためのルールも作りました。

―どのようなルールでしょう。

飯田:160時間ルールと2万回ルールです。160時間ルールは、一人の社員が一人のお客さんのために、1カ月に使っていい時間です。お客さんのために新たに仕入れてもいいし、一緒に試してもいい、いろいろ探したりしてもいいという時間です。1日8時間勤務なので、20日間の計算になります。このルール適用中は、ほかの仕事を放棄してもいいことにしました。
2万回ルールは、何かわからないことがあったら、以前に聞いたことでも何度でも好きなだけ聞いていいというルールです。これは、説明する側にも責任があると考えています。一度で理解してもらえるように説明できていないということなので。特に僕たちの仕事は、会話でお客さんにわかりやすく説明しないと伝わりません。この2つのルールは、僕自身の戒めでもありますね。

社員全員がバイヤー&営業。予算を自由に使って挑戦できる

―予算について、ユニークな提案をしていると伺いました。

飯田:はい、社員全員が予算を持っています。役職者は年間2,000万円、正社員は年間500万円、パート、アルバイトは年間300万円です。お客さんを喜ばせるためにやってみたいこと、仕入れたいものがあれば、自由に使えます
ある社員は、この予算で「旅する料理道具屋」として旅に出ました。ある社員は、オリジナルの新しい商品を開発しました。ある社員は、かっぱ橋に観光に来た人のために、オリジナルTシャツを作ったんです。特に海外からの観光客は、訪れた街の名前が入ったTシャツをお土産に持って帰ることが多いのだそうです。でも、かっぱ橋にはないから作りましょうと。

―面白いですね。

飯田:自分がいいと思った商品を仕入れる社員が多いのですが、最初は大体失敗します。在庫を抱えてしまいます。それは、お客さんが欲しがっている商品とはずれているからです。かっぱ橋に来るお客さんと、渋谷や新宿などで人気のある商品とは多少ずれがあります。でも、失敗をすることは素敵なことです。そのあとにきちんとリサーチをして、お客さんの顔をちゃんと見て、欲しがっているものを探そうと変われるからです。飯田屋では、「売りつけたら減俸」というルールもあるので、みんな試行錯誤して仕入れを考えます。

商品とお客さんをつなぐ翻訳家になる

―飯田さんはおろし金のほかにも、フライパンやピーラーなどを徹底的に調べて試していますね。ブログで検証結果を書かれているし、メディアでも紹介しています。特にフライパンは100種類以上も把握しているとか。

飯田:扱う商品を調べて試すということを続けていくと、商品にはすべて理由があることがわかってきました。その形であるゆえのメリットとデメリットが必ずあります。この製作者は、このメリットを強調したいんだろうなと理解できるんです。

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―料理道具の声を聞くというようなことでしょうか。

飯田:そうですね。料理道具は話さないので、僕たちがどういうものなのかを理解していないと、お客さんに伝えることができません。だから、料理道具の翻訳者でなければいけないんです。結果的に、お客さんから「こんな商品を探している」「ほかの店から、飯田屋にならあると思うと言われて」という、相談ごとが増えてきました。そのたびに商品を探し、仕入れてきたので、いわゆる、一般的な店には並ばない売りにくい料理道具がそろっています。それが、他店との差別化にもなっているようです。

―他店と上手にすみわけができてきたということですね。

飯田:過去には相当きつい状況でしたが、飯田屋は喜ばせ業と定義してからは、社員との関係だけではなく、他店ともいい状態になっていると思います。

「飯田屋なら何とかしてくれる」駆け込み寺のような存在になる

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―飯田屋ではオリジナル商品も手掛けていますね。商品開発はどのようにしてスタートしたのですか。

飯田:お客さんに聞かれたことがきっかけでした。次世代に受け継がれる料理道具を作りたいと思いました。特にフライパンは料理をするうえで基本として持っていたい道具ですが、母から受け継いだという話は聞いたことがありません。錆びたり、変形してしまったりするからです。そこで、錆びない、変形しない、焦げ付かない、受け継げる。そんな耐久性に優れたフライパンを作りたいと思いました。開発をしてくれる会社や職人を探すことからはじめ、断られ続けてもあきらめずに完成したのが、「エバーグリル」です。構想に5年、着手から3年かかりました。販売を開始してからもまったく売れないなど紆余曲折がありましたが、現在は生産が追い付かないほど大ヒット商品になりました。

―お客さんの声を形にしたのですね。

飯田:今では、「こういうものが欲しいのだけれどどこにも売っていない、飯田屋なら何とかしてくれる」と思ってくださるお客さんが多くなりました。

生まれ変わってもこの仕事がしたいと思えるように働く

―飯田さんご自身の働き方のポリシーを教えてください。

飯田:今が最も僕にとって理想的な働き方ができていると思います。毎日店に立ち、お客さんと話をしている時間が楽しいですね。話せば話すほど、知識が増えていきます。そうすると、より正確にお客さんに喜んでもらえる提案ができるようになる、力がつくんですよね。「こんなにいい商品に出合えましたね」と、にやにやして伝えていきたいんです。

―今が充実しているのですね。

飯田:ものすごく無理をした過去があったからこそ、今があると思います。今では失敗を重ねてよかったと思います。失敗は僕の宝物になっています。

―経営者としての理想はありますか。

飯田:社長になったときに、生まれ変わってもこの仕事がしたいと思えるように働くと心に決めました。誰かを傷つけるような仕事の仕方はしない。「いい人がいい人のままでいい仕事ができる組織にしたい」というのが理想です。

取材後記

「僕の『ありがとうございます』は、めちゃくちゃ美しいんですよ」と言って、飯田さんは笑います。そして、誰よりもかっこよくレジ打ちをしたいとも。経営者ながら飾らない、永遠の少年のようなところもあり、お話を聞いていると自然と笑顔になれるのです。質問をすると、ユニークな例えを盛り込んでわかりやすく説明してくれます。とても勉強家で、人に話をすることを心から楽しんでいることが伝わってきました。今後は、開発にも力を入れていくとのこと。どんな料理道具が誕生するのか、料理をする人にとっての駆け込み寺としていつまでも続いてほしいと思いました。

(プロフィール)

飯田結太さん
株式会社飯田代表取締役社長/東京・浅草、かっぱ橋で、大正元年(1912年)創業の料理道具専門店「飯田屋」の6代目店主。料理道具をこよなく愛し、世界中の料理道具を試して研究している勉強家。台所番長、オロシニストなどとしても知られている。テレビ東京「カンブリア宮殿」に出演。TBS「マツコの知らない世界」、NHK「あさイチ」、日本テレビ「ヒルナンデス」などでも料理道具の良さを伝えている。開発から関わり、妥協せずに時間をかけて手掛けているオリジナル商品エバーシリーズは10種類あり、中でもエバーピーラーは8万個売れる大ヒット商品になった。2018年、東京商工会議所「第16回 勇気ある経営大賞」優秀賞受賞。授与式に、飯田氏だけではなく、社員全員正装で参加したことが話題になった。

2023/02/10

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