COMWARE PLUS プラス・サムシングを大切なお客さまへ

メールマガジンのご登録
賢いはたらき方のススメ
賢いはたらき方のススメ
ポスト
        
        

「ロボットと生成AIで世界を変える」をキャッチフレーズに、アメリカのNFLに接客担当として導入されたchat GPT搭載の見守りロボット「cinnamon」や、専用アプリを介してメッセージのやり取り、8か国語翻訳が行えるスマートマスク「C-FACE」など、世界で話題となるプロダクトをいくつも開発している、ドーナッツロボティクスCEO小野泰助さん。
22歳で起業し、人気デザイナーからロボット開発へと舵を切ったのは、物事を俯瞰して見ながら、将来必要になっていくものは何かと常に考えていたからだそうだ。小野さんの時代を読む力、それを実行に移すためにこだわってきたことについて、お話をうかがった。

これからやってくる人口減少で必要なものを探して

―大学卒業後すぐに起業しようと思われたきっかけは何でしょうか。

334_img01.jpg

小野:2つの有名企業の創業者一族に生まれまして、企業が発展していく様を見て育ったのですが、私が14歳の時に父が亡くなり、そこからはまったく違う生活へと変わりました。まだ中学生でしたが、これからどうやって母と姉を守っていこうかと考えていたんです。ですが、中学生に何かができるわけではなく、悔しい思いをしていました。

そういう経験をしているので、大学卒業後に普通の会社勤めをしようとは考えていなかったんです。家を盛り返すために、起業しようと考えていました。

―いくつも事業を手掛けてきたとうかがっています。

小野:飲食関係の事業を手掛けていました。店舗のコンセプトや設計、デザイン、マーケティングなど、事業を起こすために必要なことは独学し、毎日どうやったら成功に導けるのかと考えていました。そのうち、物事を俯瞰して見られるようになり、「次にはこれが流行る」と予測できるようになったのです。失敗を重ねながら次々と事業を起こしていくうちに、他店の店舗設計を依頼されるようになり、海外の仕事も増えました。気がつくと「デザインの匠」としてテレビにも出演するようになっていました。

―成功体験をいくつもされているのですね。

334_img02.jpg

小野:いいえ、そんなことはないんですよ。何かを一旦流行らせることはできたと思います。しかし、事業を展開するほど借金は増えていくんですよね。新たな事業のために運転資金を借りて返してということを繰り返していくのですが、失敗を重ねていました

一方で、当時、Google、Apple、ソフトバンクなどのIT企業が次々と成長していきました。その様子を見ながら私も失敗したままで終わることはできないと思っていたのです。

―そしてロボット開発へと舵を切ったのですね。

小野:そうですね。上場する事業を起こすことを目標としていましたが、当時手掛けていた事業は人口の減少とともに平行線をたどるか、縮小し、さらに競争が激しくなっていく業界でした。ですから上場を目指すためにも、少子高齢化が進んで人口が減っていくことで必要になるものはなんだろうと考えていくと、それはAIやロボットの開発だろうと思ったんです。

ガレージから世界へつないだ、ロボット開発

―ロボット開発は北九州市のガレージで始まったとうかがっています。

小野:はい。一人で創業しました。当時はソフトバンクロボティクスのpepperもまだ誕生していない時代で、周りからは、ドラえもんやガンダムを作るのかと言われるほどロボット開発は夢のような話でした。

しかし、北九州市にはロボット開発で世界に知られるメーカーなどもあり、優秀なエンジニアがたくさんいたんですね。そういう人たちに声をかけて、彼らの仕事が終わったあとに、ガレージに集まり、どういうものがいいかと試行錯誤していきました。

今でこそ、ロボットは身近な存在になりつつありますが、当時は、工場で働く、大きなアームを持つロボットが知られているくらいでした。しかし、私は、ゆくゆくは家庭にロボットが入ってくる時代が来ると確信していました。だからこそ、将来性がある家庭用を目指して開発していこうと思ったのです。大掛かりな開発は無理ですが、3Dプリンターを使って作る「小さな見守りロボット」なら提案できると思いました。

―小さな見守りロボットが、2016年に開発された「cinnamon(シナモン)」ですね。

小野:そうです。人口が減少していけば、一人暮らしの高齢者が増えます。誰かが見守らないといけなくなるだろうと思いました。また、一人で福岡県に住んでいる80代の母親を見守ってくれる存在は私が作らないといけないという使命感もありますね。その役割をしてくれるのがcinnamonです。

334_img03.jpg

―「cinnamon」はどのようなところにこだわっていますか。

小野:防犯カメラやタブレットとどうやって差別化するかにこだわりました。どういう機能が必要か。見守りができると言えば、防犯カメラでも十分と思われます。会社の受付に置くとしてもタブレットでいいと。ロボットは、LLM(大規模言語モデル)が登場してから生成AIとつながり、喋るようになっています。ならば、人間の代替をすることができると思いました。そして、ただ喋るだけではなくて、受け答えができる。外見は、話しかけてみたい、触ってみたいと思えるデザインがいいと思いました。一言でいえば、あだ名をつけたくなる製品です。

―とても愛らしいロボットですね。

小野:ロボットは、AIやDXなどの技術が入ると、優しいものに変わるんですよ。誰しもカメラで監視されているのは嫌ですよね。でも、見守られているという機能になると、愛情がわきます。cinnamonは見守りや受付などの仕事をするロボットなので、その部分の技術を伸ばすことが重要なんです。

―どのような機能でしょうか?

334_img04.jpg

小野:ロボットが会話をする場合、通常のLLMを利用しても返答に10秒くらいかかりますが、cinnamonは、LLMを加工し、質問を予測してわずか1~2秒ほどで答えます。人からの質問を予測して、質問が終わるころには解答を生成し始めます。当社ではこれを「パラレル推論」と呼びます。また、話の途中で話題を変えても即座に対応する「割り込み会話システム」も可能となりました。これら2件を特許出願中です。

次に、AIカメラと連動して、会話の相手の表情を読み取り、今、話しかけてほしくなさそうだということも察知します。また、人の体調に応じて会話ができるようになりました。いわば、“沈黙を理解する”のです。

―素晴らしい技術ですね。そして、cinnamonはさまざまな場所でも活躍していますね。

小野:2017年に羽田空港ロボットプロジェクトに採択され、2022年にはCES(世界家電見本市)に出展することができました。まだプロトタイプですが、2024年2月は、アメリカ最高峰のスポーツイベント、NFLスーパーボウルで接客や翻訳を担当しました。現在、1台はアメリカの事務局に残り、今後もさまざまなイベントに参加する予定です。

コロナ禍、解散覚悟で作り上げたスマートマスクが起死回生に

―コロナ禍になってスマートマスク「C-FACE」の開発が始まり、すぐに発表したとのことですが、短期間で発表に至った原動力はなんでしょうか。

小野:cinnamonを発表後、しばらくしてコロナが全世界に広がり、人々は外出しづらくなりました。同時に接客を目的としていたcinnamonの需要が消滅してしまいました。そうなると、運転資金が回らなくなり、相当なダメージを受けます。会社を解散するしかない状況に追い込まれた時に、社内で温めていた構想を完成させて発表してから解散しようと決断しました。そこで開発したのが、スマートマスク「C-FACE」です。

「C-FACE」は、専用アプリを介してメッセージのやり取りや8か国語翻訳などが行えるスマートマスクです。

―そのような決断があったからこそ、短期間で完成に至ったのですね。

334_img05.jpg

小野:はい。「C-FACE」は社員全員が寸暇を惜しんで集中して作り上げ、1カ月足らずで完成させました。すぐに発表したところ大変話題になり、海外からも注文が舞い込み、結果的に運転資金が潤沢になって解散を免れたんです。構想はありましたが、コロナ前はマスクの需要は決して多くはありませんでした。しかし、コロナ禍に必要になるだろうと機転がきいたことで生き残ることができたのだと思います。

ポスト

事例紹介

スマートフォン用リンク

エバンジェリストが語るICTの未来

スマートフォン用リンク

ページトップへ

トップへ