

米Appleは、3月25日に米国とカナダで定額制のニュース配信サービス「Apple News +(プラス)」を始めました。これは、同日に発表された「Apple TV+」「Apple Arcade(アーケード)」などとともに、Appleがサブスクリプションビジネスに注力していることを示すサービスの展開として注目されています。4月2日付けのNew York Timesによれば、Apple News+はサービス開始後48時間で20万人以上の登録者を獲得したと言います。(※)今、なぜAppleはサブスクリプションビジネスに力を入れ始めたのでしょうか。
※出典:The New York Times「Media Companies Take a Big Gamble on Apple」2019/4/2
月額9.99ドルで300を超える雑誌・新聞が読み放題
Appleが始めたApple News+は、専用アプリを使い、米国では月額9.99ドル(約1,100円)で「ウォール・ストリート・ジャーナル」や「フォーチュン」などの経済誌、「タイム」、「ニューヨーカー」、ファッション誌の「ヴォーグ」、科学誌の「ナショナルジオグラフィック」などをはじめとした300を超える新聞・雑誌が提供する記事を読み放題にできるサービスです。
この読み放題で享受できるサービスの価値は、各メディアを個別に購入すれば年間8,000ドルに相当するといいます。このことからサブスクリプション型ニュース購読サービスであるApple News+は、「ニュース版Netflix」と呼ばれています。
また、Apple News+はiPhoneやiPad、Macにプリインストールされるようになります。
新聞社は独自のサブスクリプションとの棲み分けをどう考えるのか
しかし新聞各社は既に独自のサブスクリプションを始めているため、Apple News+に記事を提供することは、新聞社が独自で確保したユーザーを失ってしまうリスクもあります。もしApple News+のサービスが日本でも始まるとしても、同じことが言えるでしょう。
たとえばApple News+に記事を提供し始めたウォール・ストリート・ジャーナルは独自でサブスクリプションサービスを行っていますが、月額が40ドル弱ということで、Apple News+の月額9.99ドルにはまったく対抗できません。ちなみに、ウォール・ストリート・ジャーナルの日本語版は月額999円(税別)からです。
それでもAppleニュースプラスに記事を提供するということは、稼働中のApple端末が世界で14億台(出荷数ではない)もあるということに魅力を感じているのかもしれません。日本でも2018年第4四半期のベンダー別のスマートフォン出荷台数では51.1%のAppleが断トツトップ※であることから、日本の新聞社にとっても気になるサービスであると言えます。(※)
一方、既にiPhone向けに本数を制限して無料で記事を提供してきた「ニューヨーク・タイムズ」は、Apple News+には不参加と決めています。
これは、Appleがニュース配信サービスから得られる収入の半分を取り分として要求しているためだとも言われています。つまり、月額9.99ドルのうち約5ドルをAppleが徴収して残りを各メディアの読まれた量により配分するという仕組みなのです。
ここに、実際にコンテンツを制作している側と、配信サービスを提供する側の利益配分調整の難しさが見え隠れしています。
以上のように、新聞社には独自のサブスクリプションサービスだけに徹するか、あるいはApple News+と共存するかという選択を行う際、1ユーザー当たりの利益率の高さをとるか、ユーザー数を取るかという難しい判断を迫られます。そのため、Apple News+に記事を提供する新聞社は今回開始されるサービスではロサンゼルス・タイムズとトロント・スター、ウォール・ストリート・ジャーナルの3社にとどまっています。
一方で、Apple News+への参加を見送ったニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどのメジャー紙は、独自のサブスクリプションでユーザーを増やすことができているという実績があります。
ただ、このような一部の新聞以外は独自の配信で苦戦しているため、今後はApple News+など、ユーザー数を確保できるサブスクリプションに参加することを前向きに検討し始める可能性もあります。
※出典: IDC Japan 株式会社「2018年第4四半期および2018年通年国内携帯電話/スマートフォン市場実績値を発表」2019/2/19
閲覧情報による広告配信の議論が、サブスクリプションへのシフトを加速させている?
Apple News+では後述するGoogleやFacebookなどのようにユーザー属性に合わせた広告を配信するという収益モデルを取らないため、ユーザーの閲覧情報などを収集しないことを差別化として打ち出しています。
つまり、サービス利用料を無料にして広告で収益を上げるのではなく、純粋に定額制の購読料で収益を上げるサブスクリプションモデルを採用したということです。
このようなAppleのサブスクリプションへの注力は、メーカーでありながら「所有から利用へ」というサービスを提供する事業者としての拡大意欲を示しているとみられています。
このことは、AppleはApple News+の他にも「Apple TV+」や「Apple Arcade」というサブスクリプションサービスを発表していることにもみられます。
Apple TV+は、定額制の動画配信サービスで、NetflixやAmazonプライムビデオ、Huluなどが競合になります。
Apple Arcadeも定額制のゲーム配信サービスで、2019年の秋頃からのサービス提供を予定しています。
また、ハードメーカーからの脱却を示す事業としては、2019年夏頃からの提供を予定しているApple Cardという独自のクレジットカードの発行もあります。
以上のように、Appleがハード依存からの脱却を急いでいるようにみられるのは、主力製品であるiPhoneの販売不振も影響しているとみられています。
実際、Appleのティム・クックCEOは、2019年の年頭に自社のプレスリリースで投資家に対して以下のように説明しています。
「主要新興国市場ではいくつかの課題が予想されましたが、特に中華圏では景気減速の大きさを予測できませんでした」
“While we anticipated some challenges in key emerging markets, we did not foresee the magnitude of the economic deceleration, particularly in Greater China.”(※)
※出典: Apple「Letter from Tim Cook to Apple investors」2019/1/2