「働き方改革」という言葉が浸透し、日本でもようやくオフィスでの長時間労働などの慣行が見直されつつあります。その中で急速に普及したのがテレワークという働き方です。ただ、テレワークは人の目が届きにくい働き方なので、管理者が監視の必要性を考えてしまうのは仕方のないことでしょう。とはいえ、そのスタンスが部下や従業員にプレッシャーを与えることにつながるなら元も子もありません。ここでは監視について、「見守る」という考えのもと、注意すべきことやツール類の導入のポイントを紹介します。
管理者から見たテレワーク環境の不安
管理者目線でテレワーク環境の不安を考えると、「部下がサボっていないか心配」ということがあげられるのではないでしょうか。
逆に言えば、部下も「サボっていると思われていないか心配」と考えているかもしれません。
人の目が届きにくいテレワーク環境では、自身を正しく律する必要がありますが、それを誰もができるわけではありません。
たとえば自宅で作業をすると、どうしても仕事とプライベートの区別が曖昧になってしまいます。
業務時間内に、家事や趣味などに時間を使ってしまうことが無いとは言い切れません。
管理者の役割は、企業の業績を上げるために部下のマネジメントを行うことなので、業務に集中してほしいと思う気持ちはわかります。
オフィスにいれば、まわりを見渡すだけで仕事の様子や状況を確認できました。しかし、テレワーク環境ではチャットやビデオ会議で作業状況を確認したり、今までと違ったやり取りが発生したりして、面倒に感じてしまう管理者も少なくないでしょう。
そこで、ある程度作業状況を可視化するための手段として、監視ツールを導入して不安を払拭しようとするケースが多いのではないでしょうか。
テレワーク業務を監視するメリット
広辞苑によると、監視という言葉は、
「(悪事が起こらないように)見張ること」
と記載されています。
監視という言葉はネガティブなイメージですが、ここでは監視を「見守る」とポジティブに言い換えて、テレワークの業務監視を考えてみましょう。
テレワークを「見守る」「見守られる」ことによって、管理者とスタッフ両方のメリットが見えてきます。
(1) 長時間労働の防止
さきほど述べたように、テレワークは自宅で作業をすることが多く、仕事とプライベートの切り替えがなかなかできない人もいます。
そうなると、どうしても仕事に集中できずにダラダラと仕事を続けてしまうこともあるでしょう。
そんな時には、テレワーク中に定期的に業務記録を残すなど、適度に作業状況を確認するようにすることで、長時間労働を防止することができます。
また、実際の業務記録が残っていれば、労働時間に対して適切な労働量になっているか見直しができ、仕事量の調整ができます。
(2) 生産性の向上
レノボの国際調査によると、テレワーク環境で生産性の低下を感じる人の割合が日本では40%となっており、他国とくらべて飛び抜けて高くなっています。
原因としては、「勤務先企業がテクノロジーに十分な投資を行っていないこと」と、67%もの人が回答しています。(※1)
しかし、テレワークの設備を早急に整えることは難しく、日本ではテレワークの普及がなかなか進んでいないのが現状です。
そこで、監視ツールの出番となります。このツールを利用して適切にスタッフを見守ることで、オフィス勤務に近い緊張感を保ち、生産性の低下を防ぎつつ仕事をすることができます。
※1 レノボ・ジャパン合同会社 「在宅勤務へのテクノロジーの貢献に関する意識調査」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000013608.html
テレワーク業務を監視するデメリット
テレワークを監視するメリットはいくつかありますが、デメリットも多くあることを十分把握しておく必要があります。
ここでは特に発生しやすいデメリットを紹介します。
(1) スタッフとの信頼関係を損ないかねない
仕事をする上で信頼関係は欠かせません。しかし、テレワークを監視するということは、スタッフからは「組織から自分は信頼されていない」と感じてしまう人も少なくないでしょう。
テレワークでは、いつもと違う環境で仕事をしているので、それだけでストレスを抱えているスタッフも多くいます。その上、「監視」されている感覚を覚えてしまうと、より一層ストレスを感じるようになりがちです。
(2) テレワークの良さを潰してしまう
テレワークのメリットは、セキュリティに注意すれば、どこからでも仕事ができることにあります。組織の働き方にもよりますが、介護や育児をしながら働くことができる職場では、監視ツールを導入することで不要なストレスを与えてしまい、テレワークのメリットを活かすことができません。
テレワークであれば隙間時間を使って働きたいと思った人も、監視されることによって働きにくさを感じてしまい、離職につながる可能性があります。
(3) プロセスを重視した仕事スタイルに傾倒する
テレワーク中の社員を監視したいということは、業務の成果よりもプロセスを重視しているのではないでしょうか。この状況が続くと、スタッフは仕事の質よりも、業務に取り組んだ時間を重視するようになってしまいます。監視をすることによって、中身のない仕事になってしまっては本末転倒です。
テレワーク業務を監視する時に気をつけておきたいこと
(1) 監視することは双方にとってメリットがあると認識する
前述したように、監視することは管理者とスタッフにとって一定のメリットがあります。
監視ではなく、適度な「見守り」をすれば、スタッフを余計な不安から解放できます。
組織としても長時間労働などのコンプライアンス問題を防ぐことができ、スタッフの生産性の向上やモチベーションの低下なども、ある程度把握しやすくなります。
(2) 何を見ているのかを明確にする
サボっていないか監視したい、という気持ちが全面に出ると、過度な監視をしてしまい、プライバシーやハラスメントの問題に直結してしまいます。
あくまで見守っているという気持ちをもって監視ツールを利用しましょう。
そこで仕事中のどこを見ているのか、明確に伝えておくことが重要です。
スタッフの気持ちになって、どこまでなら見られても不快に思わないのか、よく考えて管理者とスタッフの両者の間で合意をすることが大事です。
(3) 仕事の成果を評価する
テレワークをしていても、もちろん労働基準法が適用されます。
スタッフの作業時間を管理することはとても大切なことです。
しかし、それは仕事の評価とは分けて考えるようにしましょう。
テレワークではスタッフと直接対面する機会が減るため、評価担当者は目の届く実績だけで評価をしてしまう傾向があります。
これはオフィス勤務を前提とした評価制度に基づいているためです。
これをテレワークに合わせた形で評価項目を設定し直せば、適正な評価は可能です。
テレワークであっても、オンライン会議ツールを使って対面での面談をすることで、成果達成に向けてのプロセスを確認することができます。
プロセスから成果までを一貫して評価するためには、「いつまでに、何をするか」を明確な目標として設定しておくとよいでしょう。
このような評価制度の見直しによって、あくまで「見守る」環境を生み出すことができます。
テレワーク業務に適した監視ツール
これまでは監視ではなく、あくまで見守ることを前提とした考え方を述べてきました。
ここでは見守る環境を実現するために最低限必要なツールを提案します。
(1) 勤怠管理ツール
先ほど述べたように、テレワーク環境でも適切な勤務時間で作業しているか否かを管理する必要があります。
勤務開始・終了の報告をツールの打刻機能に行うことができ、今、誰が作業しているのか把握できます。
また、勤務時間の集計が自動化されるため、長時間労働や生産性の確認が簡単にできます。
- ジョブカン
-
12万社以上が導入。1ユーザーあたりの料金が500円未満と比較的安いのが魅力です。
ジョブカン
https://jobcan.ne.jp/
- タッチオンタイム
-
スマートフォンのGPSなどの情報を取得して勤怠打刻できるので、営業の方に特におすすめの勤怠管理ツールです。
タッチオンタイム
https://www.kintaisystem.com/
(2) 在席、離席の確認
在席・離席の確認は勤怠管理とは違い、スタッフの”今”のステータスを確認できるのでおすすめです。「在席」「離席」「休憩」「会議中」「移動中」などをひと目で把握できます。
たとえば、仕事上の用事ができたときも、オフィスにいるときのように離席しているかひと目でわかるので、顧客対応などもスムーズに行えます。
これらの機能はテレワークで導入するメッセンジャーツールに標準で備えられていることが多いため、合わせて利用することをおすすめします。
- Slack
-
無料ではじめられるチーム内コミュニケーションツールで、さまざまなサービスと連携できる拡張機能が豊富です。今のステータスを簡単に切り替えることができます。
- Microsoft Teams
-
世界で1億4千万人以上が利用するコミュニケーションツールです。ExcelやWordといったOffice製品と親和性が高いのが特徴です。もちろんステータスの切り替えは簡単です。
Microsoft Teams
https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software
- NeWork
-
オフィスのバーチャル空間を提供するサービスです。無料で利用でき、今のステータスだけでなく、相手との距離感なども視覚的にわかるようになっています。チーム単位で導入すれば、テレワーク環境でもまるでオフィスにいるような感覚で仕事ができます。
NeWork
https://nework.app/top
まとめ
テレワークは、どこでも好きな場所で働けるという非常に大きなメリットがあります。その一方で、慣れない環境に戸惑い、ストレスを抱えている人も多くいます。
そんな中、過度な監視をすることは、ほとんどメリットはありません。
しかし、適切な監視、つまり「見守る」気持ちで最低限の監視を行うことで、ストレスによるモチベーション低下、生産性の低下を防止することができます。
もちろん、勤務時間を適切に管理することは大事です。
しかしこの際、仕事の評価のやり方として、プロセスよりもより成果に重点を置いた形にシフトすることを検討してみてはどうでしょうか。
「働き方改革」が叫ばれる昨今において、柔軟な対応ができるようにハイブリッドワークを導入する組織も増えています。
ハイブリッドワークとは、出社、在宅を含め柔軟な働き方をスタッフが選択できる働き方です。
「テレワークをオフィスワークと同じ」と考えるのではなく、「テレワークとオフィスワークは別物」と考えることで、新しい働き方に対応した組織改革を目指していきましょう。
なお、NTTコムウェアでは自社のセキュリティ状況やテレワーク環境、コミュニケーション環境を簡単に把握できる「STC診断」をオンラインで無料公開しています。よろしければ、以下よりお試しください。
よくある質問
- テレワークを監視するメリットとは
-
テレワークにおいても労働基準法は適用されます。監視ではなく「見守る」という視点で過度な長時間労働を防止することができます。また、適切なITツールと組み合わせてオフィスと近い緊張感を保ち、生産性を向上させることができます。
- テレワークを監視するデメリットとは
-
スタッフを信用せず、サボりを防止するという名目で過度に監視を強めると信頼関係を損ないます。働き方改革には家事や介護などとの両立によるワーク・ライフ・バランスも重要視されています。監視されることで働きにくさを感じさせることは離職につながりかねません。
- テレワークを監視する上での注意点は
-
いかに作業時間をかけたかというプロセスではなく、業務の成果を評価する制度が必要です。プロセスにこだわりすぎると仕事の質よりも業務に取り組んだ時間を重視するようになってしまい、監視をすることによって生産性を落としてしまうことにつながります。