テレワークの普及とともに仮想デスクトップ(VDI)への関心が高まっています。仮想デスクトップ(VDI)がもたらす利便性への理解が得られたとしても、導入検討時には社内から費用対効果の説明を求められることも多いのではないでしょうか。
そこで本コラムでは、仮想デスクトップ(VDI)を検討しているもののまだ踏みきれていないという事業者様に向けて、定量効果・定性効果の観点から費用対効果について説明します。
仮想デスクトップ(VDI)によるコスト削減メリット
テレワークで移動時間の低減
2019年の働き方改革関連法案施行、そして2020年のコロナ・パンデミックによる外出自粛制限を受け、テレワークは急速に普及しました。すでにテレワークの導入を終えた企業では、時間や場所にとらわれることのない労働環境を実現したことにより様々なメリットが生まれています。
たとえば、営業担当は移動時間にも作業が可能となりますので、時間を効率的に使うことができます。サテライトオフィスや在宅勤務での仮想デスクトップ(VDI)の活用などにより、移動時間そのものも減らすことができます。直行直帰を可能とし残業時間も削減できます。移動時間を削減することで本来業務に必要な時間を確保できるため、単位時間あたりの社員の生産性は大幅に向上します。まずは時間当たり生産性の向上と、交通費削減効果など、定量的な観点から仮想デスクトップ(VDI)の費用対効果を検証してみましょう。
【試算条件】
- 人数:20名
- 1ヶ月あたりの外出(移動)回数:8回
- 移動時間:平均1時間
- 交通費:平均800円
- 時間単価:3,000円
コスト削減効果
- 稼働コスト
- :48万円/月 削減
- 交通費
- :12.8万円/月 削減
- 移動時間
- :160時間 削減
<試算例>
*稼働コスト: 1日の移動時間×回数×時間単価×人数
→ 1時間×月8回×3,000円×20名 =480,000円
*交通費:交通費×月8回×人数
→ 800円×月8回×20名 =128,000円
*移動時間:1日の移動時間×回数×人数
→ 1時間×月8回×20名 =160時間
端末一元管理で導入・運用コストを削減
また、各社員の端末管理に伴うコストも見逃せません。個人端末にアプリケーションや業務環境を用意する従来の物理クライアント端末(FAT端末)の場合、一定以上の性能を持つPCを用意する物理的コストや、OSやアプリケーションをセットアップするための人件費が発生します。PCの利用者が増えたり、PCに故障が発生したりするたびに初期セットアップが必要となり、とくに台数が多い時は情シス担当者にとって大きな負担となります。
一方、仮想デスクトップ(VDI)の場合は、OS・アプリケーション・データはサーバ上に集約されるため、セットアップにかかる稼働を削減することが可能です。また、仮想デスクトップ(VDI)の場合、FAT端末とは異なり作業はすべてサーバ上で行われるためクライアント端末の性能に依存しないというメリットがあります。社員個人の端末でも利用が可能でとくにセットアップを必要としないため、物理的コスト、維持・管理コストを大幅に削減することが可能です。
【試算条件】
- セットアップ台数:50台
- 1台あたりの作業時間:2時間
- 時間単価:3,000円
コスト削減効果
- セットアップにかかるコスト
- :30万円 削減
- セットアップにかかる時間
- :100時間 削減
<試算例>
*セットアップにかかるコスト: 1台あたりの作業時間×台数×時間単価
→ 2時間×50台×3,000円 =300,000円
*セットアップにかかる時間: 1台あたりの作業時間×台数
→ 2時間×50台 =100時間
さらに、「リンククローン方式」の仮想デスクトップ(VDI)であれば、すべての仮想マシンへのパッチ適用や、OSやアプリケーションのバージョンアップが一斉に行えるので、運用工数・コストの削減に効果的です。
仮想デスクトップ(VDI)による企業価値の向上
次に、定性的な仮想デスクトップ(VDI)のメリットについても考えてみましょう。
セキュリティレベルの向上
セキュリティ強化はあらゆる企業で必要な課題ですが、ウイルスパターンファイルの更新漏れ、セキュリティパッチ適用漏れ、不正アプリケーションインストール、社外でのPC盗難・紛失などにより、情報漏えいが発生するとお客様からの信頼喪失につながり、また企業価値を毀損する可能性もあります。セキュリティ事故発生時の対応工数換算コスト(報告書、調査、恒久対策等)は、数千万円といわれることもあります。仮想デスクトップ(VDI)によるセキュリティ強化もコストメリットとして考えられます。
事業継続対策の強化
仮想デスクトップ(VDI)はBCP対策としても大きな効果があります。近年では台風による水害、地震、大雪などの自然災害に加え、新型コロナ・パンデミックのような感染症による外出制限に対する備えの重要性が再確認されました。自然災害による通勤困難は一時的なケースが多いものの、2020年から2021年にかけての新型コロナ・パンデミックでは非常事態宣言の発令を受け、多くの企業が業務の進め方に大きな転換を迫られました。
このような通勤困難な事態においても、仮想デスクトップ(VDI)を利用すれば通常に近い業務が可能となります。社員が通勤できず一日の業務・売上が大きく減少することを考えると、自宅でオフィス業務がある程度カバーできれば、ここでも仮想デスクトップ(VDI)のコストメリットが生まれます。
さらに、クラウド型仮想デスクトップ(VDI)の活用により、高いレベルの品質・信頼性で実績のあるデータセンターを利用できるため、セキュリティリスクを最小限に抑えることができます。
社員の満足度を向上
昨今、企業は顧客満足度と同様に、従業員満足度も重要視するようになっています。前述のように、仮想デスクトップ(VDI)を活用することで、生産性の向上やワークライフバランスの促進が期待できます。
日本労働組合総連合会が2020年に行った調査によると、多くの社員がテレワークによるメリットを感じている結果となりました。(※1)
メリットの内訳としては、多い順に
- 通勤がないため、時間を有効に活用できる
- 自由な服装で仕事をすることができる
- 自分の好きな時間に仕事をすることができる
- 好きな場所で仕事ができる
という回答結果となりました。
テレワークのメリットだと感じる点
また、「テレワークを行うことで、生活(家族との生活)にどのような影響があったか」という設問には
- 家族の会話が増えた
- プライベートの充実につながった
- 趣味に費やす時間が増えた
と、時間の有効活用によるワークライフバランスの両立や家族のコミュニケーションに良い影響があったとする回答が寄せられました。(※1)
テレワークによる時間の有効活用により多様な生き方・働き方を自ら選択した結果、満足度向上につながっているようです。
※1 厚生労働省「テレワーク を巡る現状について」より
日本労働組合総連合会調査「テレワークに関する調査2020」
https://www.mhlw.go.jp/content/11911500/000662173.pdf
まとめ
仮想デスクトップ(VDI)の費用対効果をIT投資のみに着目して単純比較しようとすると、ROI(投資利益率)について経営者の正しい判断を仰ぐことは難しいように思います。仮想デスクトップ(VDI)導入検討の際は、前述のように、生産性向上や多様なリスクの軽減、従業員満足度(ES)の向上など多様な付加価値も考慮のうえ検討されることをおすすめします。
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よくある質問
- 仮想デスクトップ(VDI)導入によるコスト削減メリットとは?
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営業職であれば移動時間中やスキマ時間にもPC作業が可能になることによる生産性の向上。オフィスに立ち寄ることなく直行直帰を可能にすることによる残業時間の削減など、時間効率の向上がもたらす人件費削減効果があります。
- 仮想デスクトップ(VDI)導入による情シス担当者のコスト削減メリットとは?
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従業員の端末ごとにアプリケーションを用意するFAT端末とは異なり、リンククローン方式の仮想デスクトップ(VDI)であれば、パッチ適用やOS・アプリケーションのバージョンアップが一斉に行えるため、運用コストの削減が可能です。
- 仮想デスクトップ(VDI)による企業価値の向上とは?
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サイバー攻撃や人為的な情報漏えいのリスクが低減することにより、セキュリティ事故発生に伴うイメージダウンの可能性を減らすことができます。有事の際のBCP対策としても有効です。またテレワークを容易にすることで従業員満足度(ES)の向上に寄与します。