
働き方改革の実現に向けて最も効果的なアプローチと考えられている「テレワーク」。すでに多くの企業がその導入により、業務効率向上や残業時間の削減に成功しています。その一方で、コミュニケーションがうまく行かず、生産性が低下してしまった企業も少なくありません。
そうならないためには、原因やリスクを把握し、対策を練って実施することが欠かせません。ここでは、テレワークに伴って発生しうるコミュニケーションの活性化を阻害する要因と、そしてそれらにどのように向き合って対応すべきかについてご紹介します。
コミュニケーションの活性化がなぜ重要なのか

コミュニケーションの活性化が阻害されると何が問題になるのでしょうか。ここではまず、コミュニケーションを活性化することの重要性について考察します。Googleが自社に対し、『「効果的なチームとは何か」を知る(※1)』という調査を実施しています。
※1 Google『「効果的なチームとは何か」を知る』
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/
その結果、Googleのリサーチチームは、真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」であることを突き止めました。チームの効果性に影響する因子は「心理的安全性」が最も重要で、次点が「相互信頼」、その後に「構造と明確さ」、「仕事の意味」、「インパクト」と続いています。
各因子の概要は下記の通りです。
心理的安全性
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。
心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。
相互信頼
相互信頼の高いチームのメンバーは、クオリティの高い仕事を時間内に仕上げます(これに対し、相互信頼の低いチームのメンバーは責任を転嫁します)。
構造と明確さ
効果的なチームをつくるには、職務上で要求されていること、その要求を満たすためのプロセス、そしてメンバーの行動がもたらす成果について、個々のメンバーが理解していることが重要となります。
目標は、個人レベルで設定することもグループレベルで設定することもできますが、具体的で取り組みがいがあり、なおかつ達成可能な内容でなければなりません。Google では、短期的な目標と長期的な目標を設定してメンバーに周知するために、「目標と成果指標(OKR)」という手法が広く使われています。
仕事の意味
チームの効果性を向上するためには、仕事そのもの、またはその成果に対して目的意識を感じられる必要があります。仕事の意味は属人的なものであり、経済的な安定を得る、家族を支える、チームの成功を助ける、自己表現するなど、人によってさまざまです。
インパクト
自分の仕事には意義があるとメンバーが主観的に思えるかどうかは、チームにとって重要なことです。個人の仕事が組織の目標達成に貢献していることを可視化すると、個人の仕事のインパクトを把握しやすくなります。
Googleのリサーチチームによると、効果的なチーム作りには、「チームがどのように協力しているか」は肝要ですが、コミュニケーションの活性化が阻害され、コミュニケーション不足・コミュニケーション不全に陥っていると、どのように協力するか以前の段階で、協力し合う関係自体を醸成できない問題が発生します。
何よりもまず、コミュニケーションを活性化させ、血液が全身に駆け巡り循環するように、健全で血の通ったチームワークを築き、その次のステップとして、「チームがどのように協力しているか」に取り組む必要があるでしょう。
効果的なチーム作りに影響を与えるトップ2「心理的安全性」と「相互信頼」について、2つの対象的な体験談・事例から検証比較

組織風土・文化が異なる複数の組織・会社(X社とY社)に勤務経験があるAさんによると、失敗した時にそれを糧に次へ活かそうとする際、組織の対応は以下の2パターンに分かれると言います。
まずは1つ目のバターン「失敗を糧に反省し次に活かそう会」が催されたX社の例です。
打ち合わせの時間まで5分前、会を主催した部長はすでに会議室の席の中心に座っています。転職したばかりで勝手が分からないAさん以外の参加予定者も、序列に従った席順で座っています。部長の顔色を伺いながら取り留めもない会話を進める課長をよそに、平社員は黙って下を向いています。時間通りにAさんが会議室にはいると、「5分前行動だろ」と、部長に目配せしながら課長が言います。
Aさんが席に着くと部長が席を立ち、資料を丸めて机をたたきます。失敗した案件がいかに大切なのかをとうとうと説きながら、「この案件のPM(プロジェクトマネージャー)は誰ですか?」「関わったのは誰ですか?」「営業は誰ですか? その時の責任者は?」といった確認が続いていきます。課長が詳細を説明していきますが、そもそも課長はPMの直属の上席であり、部長はその上司に当たるわけですが、本案件の関係者からはなぜか除外されています。
課長以外の担当者の受け答えの口は一様に重く、それに対して部長から「なめた仕事していますね。ありえませんよ」のような罵声を浴びせられています。最終的には失敗とは全く関係のない営業時の責任者まで減給処分が下されました。「失敗を糧に反省し次に活かそう会」とは名ばかりの、部長主催のつるし上げ会議となり果てたのです。
次に、2つ目のバターン「失敗を糧に反省し次に活かそう会」が催されたY社の例です。
20時開催予定のところ、数分遅れで多忙な部長が会議室に入ると、参加メンバーはすでに揃っていました。「ゴールデンウィークのうちの1日はゆっくり休めましたよ」と部長が語っていたのはつい先日です。自然と雑談が止み、みんな部長を注視しています。ドアを閉めるなり開口一番、部長がこう発言しました。
「こういう状況になってしまったのは、私の責任です。行動が遅れてしまい申し訳なかった」
そう言って深々と頭を下げています。対する課長や平社員もあわてて立ち上がり、頭を下げています。X社から転職してきたばかりのAさんは、何事かと状況が呑み込めないまま、みようみまねで一緒に頭を下げます。問題が対処可能な段階で介入できなかったのは部長であり案件の最終統括責任者でもある自分の責任であるという旨の説明が続きます。
これを受け、最初に事の発端となる致命的ミスをしてしまった社員がその詳細を語っていきます。これについて、「失敗しないと、痛い目を見ないと、学べないんですよね」と部長は呟き、「起きたことはしょうがない。これからどうするのが最善だと思いますか」と失敗した社員に尋ねました。失敗した社員に対し、誰も責める様子はありません。そこから、再発防止のための原因追及と今後の対策について、実直な「失敗を糧に反省し次に活かそう会」が繰り広げられていきました。
みなさん、どんな風に感じられたでしょうか。1つ目は「失敗を糧に反省し次に活かそう会」というのは建前で、失敗に対する戦犯探しが真の目的だったと思われます。
一方の2つ目は言葉通りの会となりました。このY社の事例は、1つ目のX社と比べ圧倒的に「心的安全性」と「相互信頼」が高いことがうかがえます。X社の事例では、優秀な社員ほど定着せず転職していったそうです。この2つは極端な例に見えるかもしれませんが、「心的安全性」と「相互信頼」の醸成が如何に大切か――。その一端をうかがい知ることができるのではないでしょうか。
テレワークにとって最も有用ICT環境のコミュニケーション・ツールは何か?

「テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック(※2)」によると、テレワーク導入にあたり、「マネジメント」、「セキュリティの確保」、「コミュニケーション」、という3つのICT環境を整備する必要があります。
※2 厚生労働省「テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用ガイドブック」
http://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/14.pdf
コミュニケーション・ツールは、「コミュニケーション」に関するICT環境のツールに位置づけされます。ICT環境におけるコミュニケーション・ツールの種類として、Eメール、チャット、WEB会議システム、情報共有ツール(データ共有)などがあります。
コミュニケーションによる情報伝達の93%を占めると言われる、聴覚情報と視覚情報を使った「ノンバーバルコミュニケーション(※3)」。WEB会議システムを使った打ち合わせは、そのノンバーバルコミュニケーションの活用が可能な、(少なくとも現時点では)テレワーク環境下での唯一のツールといえるでしょう。
※3 株式会社サイダス「ピポラボ ノンバーバルコミュニケーションを活用するには?意味や具体例まで解説」
https://www.cydas.com/peoplelabo/non-verbal-communication/
大袈裟な言い回しかもしれませんが、WEB会議システムは「ノンバーバルコミュニケーション」を駆使できるため、テレワークのコミュニケーション・ツールとして最も有用なものと言えるかもしれません。それでも、対面でのコミュニケーションと比較すると、コミュニケーションの活性化を阻害する、WEB会議システム特有の要因があります。ここではまず、WEB会議システム特有の要因について考察します。
コミュニケーションの活性化を阻害する、WEB会議システム特有の要因

3人以上の対面でのコミュニケーションでは、全体を1つの会話の単位としながら、個別に複数の会話の単位を共存させ、並列して会話を成り立たせることができます。ここでは、このような対面でのコミュニケーションの性質を、多対多コミュニケーションと定義することとします。
一方、テレワーク環境・WEB会議システムの打ち合わせでは、原則として同時にプレゼンテーションする・発言する人は一人に限られています。例えば、全体に対するプレゼンテーションを聞きながら、複数の人たちと雑談するといった、複数の会話の同時進行はできません。
このようにWEB会議では、複数の会話の同時進行させる、多対多コミュニケーションは不可能であり、一対一、もしくは一対多のコミュニケーションに限定されます。対面での会議と比較しWEB会議では、このようにコミュニケーションに制限をうけてしまうため、コミュニケーションの活性化を阻害されるのです。
WEB会議を円滑に進めようとする中で陥りがちな2つの罠

調査規模15,603名、調査期間2020年11月18日~11月23日の、株式会社パーソル総合研究所が実施した「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(総合分析編)(※4)」というデータがあります。
※4 株式会社パーソル総合研究所「第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査(総合分析編)」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/assets/telework-survey4-1.pdf
その調査では、テレワークにおける生産性、組織パフォーマンス、ワーク・エンゲイジメントへの影響要因を探っていますが、その影響要因の1つとして、上司・マネージャー等のマネジメント層の「オンライン会議のファシリテーション」を挙げています。そこでここでは「オンライン会議のファシリテーション」つまり、会議を円滑に進めようとする中で陥りがちな2つの罠について説明します。
実際に、WEB会議で対面と同じように上司・マネージャーがファシリテーションをするにあたり、自己主張が強く声が大きめの人たちが会話を占領する一方、言いたいことがあっても遠慮がちで一言も発せない人たちが出てきてしまうことがしばしばあります。WEB会議のシステム上、一対多のコミュニケーションという制約がそのような状況を作り出しやすいのかもしれません。
WEB会議の特性を意識・理解することなく、対面と同じようなファシリテーションを実施してしまうと、打ち合わせメンバーの間で活発なコミュニケーションが阻害される恐れがあります。
そして、もう1つの罠について。特定の人に発言が偏るのとは真逆で、公平性を意識しすぎるあまり、平等・均一に発言させようとする議事進行・ファシリテーションの例もあるようです。懇親会のように親睦目的がメインのWEB会議であれば、決して的外れな選択ではないでしょう。
しかし、そうではない場合には、よりよい意見・アイデアを持っている社員に、より多くの時間を割り当てたほうが生産性は高いのは言うまでもありません。
打ち合わせ参加者間の雰囲気を和やかにすることはとても重要ですが、そういった主旨の発言などに時間が割かれることで、参加者らがアイデアを洗練させていく時間がおろそかになってしまうのでは元も子もありません。
特定の人たちに発言が偏る、もしくは、発言の偏りを意識しすぎるあまり均一に時間配分する。その結果として発言の質が相対的に低下し、ひいては生産性が低下する――というWEB会議で陥りがちなジレンマについて取り上げました。
WEB会議のファシリテーションをするマネジメント層が、こういったジレンマや罠のメカニズムを知り、テレワークに適したWEB会議に関する社内ルールを設け、そのルールに則ったファシリテーションを行うことで、コミュニケーション活性化の阻害要因を解消する可能性も高まるはずです。
まとめ

WEB会議ツールの導入にあたっては、余裕があるならば慣習や文化、国民性の違いも考慮すべきでしょう。「日本の会議」というくくりで言うなら、それを研究し尽くしたリモートミーティングサービス「letaria(レタリア)(※5)」は候補として有力で、検討をお勧めします。
※5 NTTコムウェア「日本の会議を考え抜いたWEB会議システム」
https://www.nttcom.co.jp/dscb/letaria/index.html