試合観戦記Vol.01 ビーチバレー 黒川魁

黒川魁選手/黒川寛輝ディラン選手ペア
「マイナビジャパンビーチバレーボールツアー2019第5戦松山大会」マッチレポート

text by 熊崎敬/photo by 竹見脩吾

黒川魁 ケガからの復帰第一戦の貴重な勝利

右足のアキレス腱断裂から7カ月、黒川魁がビーチバレーの最前線に帰ってきた。

8月24日、松山でのジャパンツアー第5戦を前に、黒川は心地いい緊張感を味わっていた。

「こんなに長いブランクは初めてです。ですから、試合前日に会場入りするときは心地いい緊張感がありました。でも、なにより大きかったのは、いつもの場所に帰ってこられたという喜び。テクニカル・ミーティングに出て、選手仲間から“久しぶり”って言われたり、音楽が流れる中で前日練習をしていると、“ああ、戻ってきたんだ”と思えたんです」

復帰までの道のりは平坦ではなかった。

オリンピックレースが本格化する中での負傷。いつもは前向きな男も、「ものすごく気持ちが落ち込みました」と振り返る。

だが黒川は、このピンチをチャンスに変えようと立ち上がる。

「大ケガを経験した選手仲間にたくさん話を聞いて、自分なりに考えました。そこで出た結論は、“ケガを悔やんでも始まらない。開き直ってケガをプラスにして復帰するしかない”ということ。そこから前向きにリハビリに取り組んできました」

左:黒川魁選手(NTTコムウェア)
右:黒川寛輝ディラン選手(国士館大学)

アキレス腱断裂からの復帰。それはただでさえ過酷なスポーツであるビーチバレーでは決して容易なことではない。砂の上での練習を再開したときも、怖さがつきまとった。

「正直、怖さはめちゃくちゃありました。強く砂を踏み込むときに、かかとだけが深く入ってしまうことがあって、そんなときに強い痛みを覚えるんです」

それでも復帰をあきらめようとは、一切思わなかった。怖さや痛みよりも、砂の上に立つ喜びが勝ったからだ。

砂にまみれて、無心でボールを追う。

ケガをしたことで、ビーチバレーがいままでよりもかけがえのないものに思えた。

黒川寛輝ディランとの兄弟ペアで臨んだ復帰戦、黒川は2-0のストレート勝ちを飾る。

ブランクを感じさせない軽快で力強いパフォーマンス。勝負どころでのポイントには、気持ちのこもったガッツポーズも飛び出した。

復帰戦を終えた黒川は、清々しい表情で語った。

「いまは無事に試合を終えられて、ほっとしたというのが正直な気持ち。でも帰ってきただけではなく、勝てたことがうれしいですね。ビーチバレーは広いコートをふたりで守るので、絶対に取れないボールはあります。でも今日は、あきらめるボールが少なかった。ボールへの反応がよくて、1歩目がスムーズに出ました。半年以上、ゲームから遠ざかっているので、正直、どうかな? と思っていましたけど、身体がすごく動いたんです」

ケガを乗り越えた黒川は、力強い表情でこれからを見据える。

「ビーチバレーは毎週どこかで試合があって、勝っても負けても、また次がんばろうと思えるのがいいところ。ぼくはまだ国内ツアーで優勝したことがないので、今後はそこを狙いたい。そして、目の前の試合に勝ち続けてポイントを稼ぎ、オリンピックに希望をつなぎたい。今日はものすごくいい感じでプレーできたので、手応えはあります。とにかく目の前の試合に全力で勝ちに行くだけです」

長いブランクを乗り越えた黒川。たくましさを増した男の躍進が、始まろうとしている。

■男子本戦Aプール1試合目

黒川魁(NTTコムウェア)/黒川寛輝ディラン(国士館大学)組 対 林貴喜(KYUBA)/林夢人(グランビーズ広島)組

曇り空の下で始まった大会初日の林/林組戦。黒川ペアは第1セット序盤から快調にポイントを重ねるが、中盤に追い上げられる。しかしタイムアウトを機に持ち直し、第1セットを先取。第2セットも、黒川(デ)選手の打点の高さと黒川(魁)選手の復帰戦とは思えない安定したプレーで主導権を握り続け、そのまま攻め勝つ。2セット連取で危なげなく勝利を飾った。

□結果 黒川(魁)/黒川(デ)2(21-17,21-14)0 林(貴)/林(夢)

■男子本戦Aプール2試合目

黒川魁(NTTコムウェア)/黒川寛輝ディラン(国士館大学)組 対 西村 晃一(東京ヴェルディWINDS)/ 柴田 大助(東京ヴェルディWINDS)組

この大会第1シードの西村/柴田組との一戦は、MCによるアナウンスやプレーの間に音楽が流れるメインコートでの開催。日曜日の午前中から、多くのお客さんが集まる中での試合になった。第1セットは接戦のまま中盤まで進むが、終盤に突き放されて落としてしまう。第2セットも黒川ペアは粘りを見せ、終盤まで熾烈な競り合いが続く。しかし勝負所でミスが重なり、連取される。この大会で優勝を飾った西村/柴田組に惜しくも敗れた。

□結果 黒川(魁)/黒川(デ)0(17-21,17-21)2 西村/柴田