NTTコムウェア アスリートインタビュー2020
ビーチバレーボール
黒川魁選手

コロナ禍で活動に制限がかかる中、選手は周りの人たちへの感謝に改めて気づき、意識の変化があったという。
応援してくれる周囲のために「気持ちでは負けない」と誓って臨んだ試合と、その準備期間について話を聞いた。

text by 熊崎敬/photo by 市川亮

ポジティブな感情を見せて盛り上げる、みんなに喜んでもらう戦い方とは?

弟ディランとのペアで挑んだ強豪との一戦、黒川はいまの自分が持つ力をすべて出し切った。

両セットとも最後に押し切られたが、中盤まで一進一退の攻防をくり広げ、国内ナンバーワンペアに喰らいついた。

「こういう強い相手を乗り越えないと成長はないので、正直悔しさは残ります。でも、同時に手応えも感じています。いままで一方的にやられていた相手に粘ることができましたから」

大熱戦を演じられたのは、精神面の充実が大きい。

過去このペアには、経験値やプレーの精度以上に気持ちで押し込まれていた。そのことを反省したふたりは、ひとつのテーマを胸に試合に挑んだ。

気持ちでは絶対に負けないーー。

「ぼくらが少しでも怖気づいてしまったら、あのペアは一気に押し込んでくる。ですからとにかく強気で戦って、ミス覚悟で攻めていこうと。そんなことを話し合いました」

強気の姿勢は、サーブひとつとっても明らかだった。

リスクを負って、とにかく厳しいコースを攻めていく。

「低い弾道のサーブを相手の間に集める。それがぼくらの狙いで、何本か相手を崩すところまで行けました。相手は確実に点を取ってくるので、それならミスを覚悟で攻めていかないと。相手の圧力を感じながらも、自分たちから点を取りに行く攻めの姿勢を出せたことはよかったと思います」

このゲームの黒川は、いつになく感情をあらわにした。

それは気持ちでは負けないというこの試合でのテーマに加え、コロナ禍での意識の変化があったからだ。

「いままでのように練習や試合をすることができなくなり、プレーできるのは当たり前のことじゃないんだと気づきました。大会は運営スタッフや審判、補助の方々がいて初めて成立する。こういう舞台でプレーできるのは、周りの人たちのおかげなんだと改めて気づいたことで、いままで以上にポジティブな感情を出していこうと思いました。そうやってゲームを盛り上げて、見ている人たちに喜んでもらおうと思うようになったんです」

限りある競技人生の中で、ひとつも悔いを残さない。できることをやり切る。

そのスタンスは、コロナによってむしろ鮮明になった。

練習がようやく再開された6月、男子ペアの再編が活発になる中で、黒川はひとつの勝負に出る。

大ベテラン、越川優にペアを組もうと働きかけたのだ。

「ぼくはもともとペアを固定できずにいたし、越川さんもそういう状況でした。インドアでオリンピックに出たほど経験のある選手と一緒にプレーできるなら、絶対に働きかけたほうがいい。そう思って、断られるのも覚悟で声をかけさせてもらったんです」

ダメ元でのオファー。だが越川は快諾してくれた。

わずか3カ月の活動だったが、その中で黒川は大きな収穫を得たという。

「ものすごく濃い時間を過ごすことができました。試合への準備やタイムアウトや間の取り方。すべてが勉強になりました。試合中の指示もものすごく的確で、ぼくが自分のことで手一杯なのに、そこまで見えているのかと。正直、すごい選手でした。レベルの違いを痛感させられました」

越川とペアを組んだことで知った、もうひとつ上のレベル。

コロナを言い訳にせず、むしろ成長の糧としたことで黒川は一回りたくましくなった。そのことは強豪ペアとの一戦を見ても明らかだ。

「コロナがあっても、目標はジャパンツアー優勝。そこは変えません。今日のような試合ができればチャンスがあるかもしれない。最近ぼくは、スポーツは周りの支えてくれる人たち、応援してくれる人たちがいてこそだと強く思うようになりました。そんな方々に、ぼくらの戦う姿を見て笑顔になっていただきたい。その一心で戦い続けます。今後とも、応援よろしくお願いします」

■息の合ったプレーは、黒川兄弟ならでは。

魁とディランの兄弟ペアは、だれもがうらやむ仲良しコンビ。「兄の家にもよく泊まりに行きます。あまりに親密なので、周りから“気持ち悪い”と言われることも」と弟ディランは苦笑交じりに告白する。兄の魁は兄弟ペアならではの良さをこう語る。「腹の探り合いをするペアもいますが、ぼくらはそんなこと全然ないですね。弟の影響もあって、最近は感情を表に出して盛り上げていくようになってきました」

第2回ビーチバレー品川オープン(東京都大田区・大森東水辺スポーツ広場ビーチバレー場)1回戦

□結果 ●黒川魁&黒川ディラン 16-21 16-21 ○石島雄介&白鳥勝浩