NTTコムウェア アスリートインタビュー2021
東京2020ビーチバレーボール日本代表チーム決定戦
長谷川暁子

2021年5月22日-23日にドーム立川立飛で行われた女子ビーチバレーの頂上決戦、競技の魅力を存分に伝える試合を見せた長谷川・二見ペアの戦い。
そこにはビーチバレーというスポーツの奥深さ、面白さを伝えてくれるエピソードがあった。

photo by NTTコムウェア

ビーチバレーの醍醐味を見せつけ感動を呼んだ“あきあず”の日本代表チーム決定戦

夢の舞台につながる、たったひとつの開催国枠を賭けた大勝負。6チームが参加した2日間のトーナメントをもっとも盛り上げたのは、長谷川暁子と二見梓の試合だったのではないだろうか。
フルセットの末に惜敗したが、準決勝は勝利への飽くなき執念と高度な技術、駆け引きがぶつかり合う、掛け値なしの名勝負だった。

初日に夕方まで続くタフな3試合を戦い抜き、そして迎えた2日目朝の準決勝。実はその序盤に、思わぬことが起きた。アタックを打つ長谷川に、一度だけ二見からのコールがなかったのだ。
コールとは、アタックする選手にパートナーが送る指示のこと。どこが空いているのか、ブロックがついているのかいないのか、そうした情報を伝えることでアタッカーを助ける。しかし、いつもあるはずの声が、そのときだけなかった。
無観客試合の環境で、聞こえなかったとは思えない。たまたまアタックは決まったが、直後、長谷川は二見に確認したという。

「あれ?いまなんでコールしなかったの?」すると思いもよらない答えが返ってきた。
「ごめん、考えられなかった」
敗北の許されない大一番、二見は冷静さを欠いていたことを素直に伝えた。その答えに、長谷川は動揺しなかったという。それどころか、むしろ安堵した。なぜか。

「あず(二見)が不安を素直に伝えてくれたからです。パートナーの心理状態を知っていれば助けてあげたり、前もって準備したりできる。私が不安なときだって同じです。なにかあったら、あずに助けてもらえますから。これがひとりで不安を抱えていたら、ミスが続いてパートナーまで不安になり、ふたりとも崩れてしまう。こうやって不安を互いに伝えて共有することで、試合中でも立て直しができますからね」

会場では、だれもこのやりとりには気づいていなかっただろう。ふたりは落ち着きを取り戻し、互いに支え合いながら徐々にリズムをつかんでいく。

コロナ禍で大会のほとんどが中止になり、練習がままならない中でも、長谷川と二見は黙々と練習やミーティングに励み、ペアとしての総合力を上げてきた。
そこには不安をあえて互いに口にする、コミュニケーションの見直しも含まれる。

「ビーチバレーは怖いところがあって、コートに立ったらいやでも本性が表われてしまう。それは取り繕えるようなものではないので、素直にパートナーに伝えたほうがいいんです。私だって不安なときはありますよ。サーブで狙われて取れるかどうか不安なとき、『いまちょっと自信ない。もう一歩寄って』とお願いして、あずにレシーブしてもらったり。私たちにはこういうやり方がいいと思って、素直に互いを助け合うようにしたんです」

ビーチバレーはふたりだけで戦うスポーツ。試合中にはコーチが大声で指示を出すことはできない。だからこそふたりの間には、想像もつかないくらい濃密な経験が積み重ねられていく。そしてペアの数だけプレースタイルがある。いいときも悪いときも、最後に答えを出すのはふたりだけ。その試行錯誤しながら勝利に向かう過程も、ビーチバレーの魅力のひとつなのだろう。
そしてふたりは、助け合うことを選んだ。ひとりで不安を抱え込んでいては、ペアにとってもストレスになる。自分の不安をペアに伝えることで、目の前のプレーに最善をつくそうとする。これはビーチバレーに限らない、コミュニケーションの真理かもしれない。

コミュニケーションだけではない。ふたりはプレースタイルも見直し、大胆なモデルチェンジを試みた。

「日本は機動力を押し出すスタイルが主流ですが、体格やパワーで勝る海外勢に多くの大会で勝ち続けるためにはそれだけでは厳しい。ワールドツアーで上位に進出した経験から、そう考えるようになりました。そこでまずはアスリート能力を高めることで土台を固め、その上で技術や機動力を生かす。そうしたチャレンジに取り組んできました」

すぐに結果が出るような、簡単な挑戦ではない。実際になかなか結果が出ず、関係者をやきもきさせもした。だが、ふたりは信じた道を突き進み、徐々に成果が出始める。

この大会の2週間前、ふたりは2年ぶりのジャパンツアー優勝を飾る。※
そして迎えた開催国枠をめぐる戦いでも、一日に3試合という過酷な日程を乗り越えることができたのは、アスリート能力を上げるため、2部練習を週6日も繰り返してきたからだ。

開催国枠を目指した戦いを終えて、長谷川は言う。
「残念な結果に終わりましたが、大会後、会う人会う人に『すごくいい試合だった』、『ビーチバレーがこんなに面白いとは思わなかった』なんて言ってもらい、うれしく思いました。いい試合ができたのは、コミュニケーションやプレースタイルの変化に加えて、目の前のワンプレーを丁寧にやるというテーマを実行できたからだと思います。いいプレーをしようとか、このポイントは落とせないと考えると、プレーの選択に色気が出てミスにつながる。ですから、『いま目の前のプレーを丁寧にやる、その先にしか、いい未来はない』と考えて、できることに集中したことがいい試合につながったと思います」

インドアからビーチに転向して6年、準決勝で敗れたとはいえ、日本でわずか4チーム、8人だけしか立つことができない舞台で戦った長谷川は、いまかつてない心身の充実を感じている。

「アスリートはいつまでも続けられる仕事ではなくて、いつかはやめないといけない。29歳でインドアを引退したときも、フィジカルの衰えを感じていました。でも、そこからビーチに転向して、一から取り組み始めたわけです。あれから6年経ちましたが、いまがいちばん充実しているかな。動きも技術も上がってきて、ビーチバレーの醍醐味を味わえるようになった。やればやるほど楽しいんです。こんな環境を与えてくれた会社と関係者、応援してくれる方々には感謝しかありません。

考え抜いて苦しんで、そして存分にビーチバレーを楽しみながら、これからも長谷川暁子の戦いは続いていく。

※マイナビジャパンビーチバレーボールツアー2021(BVT1) 第1戦立川立飛大会優勝 https://www.nttcom.co.jp/news/cf21051001.html

【長谷川暁子・二見梓ペア大会レポート】

大会注目の坂口・村上ペアとの1回戦を、シード順通りの実力で順当にストレート勝ちした長谷川・二見ペア。しかし、続く西堀・溝江ペアとの2回戦を0-2で落としてしまう。敗者復活戦となった草野・橋本ペアとの3戦目は第1セットを落とすが、二見のブロックが決まり始めて波に乗り、第2・3セットを連取。翌日に希望をつないだ。
2日目に行なわれた鈴木・坂口ペアとの準決勝は、大会屈指の名勝負に。第1セットを21-18で先取すると、第2セットも18-20から巻き返し、マッチポイントをにぎる。だがここでミスが出て、22-24と落としてしまった。最終セットは10-6と先行するが、サーブで崩され逆転負け。決勝への道を絶たれた。
勝利チームも試合後に涙を見せた無観客での激戦、ネットを通じて視聴したファンにもビーチバレーの魅力は存分に伝わったに違いない。

長谷川暁子選手(NTTコムウェア所属)

二見梓選手(東レエンジニアリング所属)選手HP(外部サイト)