
サブスクリプションビジネスはときに「チャリンチャリンビジネス」と呼ばれることがあります。
一度契約にこぎつけられれば、その後は顧客から定期的にチャリン、チャリンと料金が入ってくるというわけです。
たしかに見かけはそうかもしれませんが、これは「甘すぎる幻想」と言わざるを得ません。多様なニーズを持つ顧客との継続的な関係性を築いていくという努力を怠れば、「見かけだけのサブスクリプションビジネス」はたちまち行き詰まってしまいます。
今回は、顧客と継続的な関係性を築くために具体的に実施すべきことについて考えてみます。
サブスクリプションビジネスの収益はそもそも不安定
製造業をはじめさまざまな業界で、「モノからコトへ」のビジネスモデルを転換することの重要性が叫ばれています。
かつての高度成長期ならともかく、現在は「良い商品(モノ)さえ作れば売れる」という時代ではなくなっています。
グローバル化が進展する一方、コロナ禍を機に人々の生活様式も大きく変化しており、不確実性が高まっている中で、多くの企業は「自分たちは今後、何で儲けていけばよいのか」という課題に直面しています。

そうした中で注目されているのが、「サービス(コト)」の提供を主体としたビジネスに転換して、収益拡大や新たな収益源の創出を狙うという戦略です。
その典型がサブスクリプションビジネスであり、顧客と契約して商品やサービスを継続的に利用してもらうことにより、安定的な収益を得ることができます。
初めてサービスを利用する際に初期費用が抑えられるという点も顧客の心理的なハードルを下げ、契約にこぎつけやすくなる効果があります。
ただし、こうしたサブスクリプションビジネスの表面的なメリットばかりに目を向け、「定期的にチャリン、チャリンとお金が入ってくる」と考えるのは甘すぎると言わざるを得ません。
従来の売り切り型のビジネスモデルは、シーズンや景気に左右され不安定でありながらも、商品が売れれば一括で売上として計上し、得られた収益で製造や販売にかけてきたコストを回収することができました。
これに対してサブスクリプションビジネスは、投資コストを長期間にわたって回収していくことになります。要するに初期コストはほぼ自社の持ち出しとなり、しばらく赤字が続くことを覚悟しなければなりません。
また、サブスクリプションビジネスは安定的な収益を得ることができると述べましたが、これはあくまでも様々な施策が上手く回った場合です。
当然のことながらサブスクリプションビジネスも景気の低迷や他社との競争激化といった外的要因を受けて、苦境に立たされることがあります。
例えば、他社がよく似たサービスをより安い利用料で提供を始めた、というのはよくある話です。顧客の流出を防ぐために自分たちも利用料を下げて対抗するといった策に出てしまうと価格競争に飲み込まれ、赤字からの脱出はますます遠のいてしまいます。
サブスクリプションで追求すべきはLTVの最大化
サブスクリプションビジネスで安定的な収益を得るために最も重要な要素が「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」です。
一人ひとり(または1社)の顧客がサービスを利用する期間全体にわたって、どれだけの利益をもたらしてくれるかという長期的な視点に基づいて収益を判断します。

顧客と継続的な関係性を築くサブスクリプションビジネスでは、顧客ごとにLTVの最大化を図ることが、最も重要なポイントと言えます。
企業が継続して価値を提供し続けるという前提であれば、サービスの利用期間が長い顧客ほどLTVは高くなります。言い換えれば、顧客といかに継続的・長期的関係を保てるかが大きなポイントであり、そのための大前提となるのがカスタマーサクセスです。
顧客が自社のサービスや商品を利用することで高い満足を得ること、あるいは顧客が事業で成功することが継続的な利用につながり、結果としてより大きな収益をもたらすのです。
サブスクリプションビジネスにおける契約はあくまでもスタートラインであり、顧客のニーズや課題と並走し続ける必要があります。
こうして顧客との継続的な関係性を築き、信頼や愛着を感じてもらえるようになれば、最適なタイミングで契約プランの変更、オプションの契約、アップセル、クロスセルなどを提案することも可能となり、さらなるLTV向上が期待できます。
顧客の利用状況をしっかり把握
顧客との継続的な関係性を築くために必要な要素とは何でしょうか。
当然のことながら、定期的にチャリン、チャリンと入ってくる利用料の総額を眺めていても顧客のことは見えてきません。一人ひとりの顧客の利用状況を把握する必要があるわけですが、これは顧客数や提供サービスの種類が増えることを考慮すると手作業では困難でしょう。
そこで、ITを使ってデータを収集し、可視化する仕入組みを導することが前提となるのです。
では、具体的にどんなデータに注視すればよいのでしょうか。
先ほど、「顧客ごとにLTVの最大化を図ることが、サブスクリプションビジネスの最も重要なポイント」と述べましたが、大まかには「購買単価」×「収益率」×「購買頻度」×「契約継続期間」でLTVを算出することができます。
要するにこれらの要素をKPIとして一人ひとりの顧客の利用状況をしっかり把握することが基本となります。
そのうえでさらに踏み込んで、一人ひとりの顧客がどのようにサービスを利用しているかを把握する必要があります。
サブスクリプションビジネスで最も避けなければならないことは、言うまでもなくサービスの解約であり、その兆候をできるだけ早期に察知することが重要です。
例えば、定額制の契約を結んでいるにもかかわらず「その料金に見合うだけの頻度や量でサービスを利用していない」、あるいは従量制の契約であっても「サイトにほとんどログインさえしていない」という顧客がいたならば、その顧客はサービスに対してほとんど満足しておらず関心が薄まっており、そのまま放置すれば次の契約更新のタイミングで解約してしまうことが予想されます。
なぜ顧客のニーズとサービスの間にギャップが生じているのか、その原因を追究して改善を図る必要があります。
また標準的な頻度や量でサービスを利用している顧客に対しても、アンケートやQ&Aなど継続的なコミュニケーションを通じて満足度を確認するほか、キャンペーンを行った際には必ずその効果測定を通じて顧客の潜在的なニーズや課題を分析し、それに応えていくための新たな施策をサービス内容やプランに反映していくことが重要です。
サービス内容充実の具体例等、LTV向上についてもっと知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

繰り返しになりますが、サブスクリプションビジネスで提供するサービスは、B to B分野においては顧客のビジネスの成功と成長、B to C分野においては生活の質の向上など高い満足を獲得してこそ、はじめて「価値あるもの」となり、継続的な契約とさらなる利用拡大につながります。
その結果として、LTVの最大化が実現するのです。
上述したポイントを押さえつつ、カスタマーサクセスを常に意識し顧客との継続的な関係性を築くことで、売上向上を目指しましょう。